化粧女王を探す長い旅 by 大王

2005-07-04 【国家健全化計画2005】8集団行為の摘発の巻

[国家健全化計画]

 芋縄は、かねてからの疑問を係長に直接尋ねてしまった。ぶつぶつ鼻声男の忠告を無視して。

 『係長が、バキュームで吸い取ったあれは、どうするんですか?捨てているんですか』

 ほかにもいろいろ知りたいことはたくさんある。

 採精刑務所では何が行われているのか。子孫繁栄養殖場とは何か。そうした一連の疑問を次々にききだせるチャンスだと、芋縄は思った。

 無邪気なほどに無防備な寝起きの係長の顔をみて、いまなら教えてくれそうな気がしたのだ。

 だが。。。

 『あなた、そんなこと私に聞いてどうするの。私は答えるとでも思っているの。余計なことは聞かないことね。2度とそんな質問はしないでちょうだい。さ、車を出すのよ』

 返ってきた言葉は、それだけだった。

 いろいろと詮索すると、まずいらしい。それだけは分かったが、何もかも疑問だらけだ。

 下っ端は、そうした疑問を探ろうとはせずに、黙々と働くことこそただ一つの任務なのだな。

 係長の怒りの言葉から、芋縄は、そう自分なりに理解するしかなかった。

 係長は帰還する車の中で、一言も口をきいてくれなかった。

 変な質問で、係長の機嫌を損ねてしまった。

 しかし芋縄は、それからほどない7月13日の夜。東区海の中道の海岸で行われた刈り込みで、たちどころに係長の信頼を取り戻した。

 その日は、激しい雨の夜だった。第一係は、海の中道をパトロール中に、あやしい車両を発見して包囲した。

 車両はマイクロバスなのだが、中が見えないようにカーテンを下ろしたまま、どしゃぶりの雨の中、一切のライトを消している。

 エンジンだけはかけたままである。

 気がつかれると逃走の恐れがあるので、鼻声ぶつぶつ男が、3人のベテランを連れて、徒歩で車両に近付いた。

 そうして、手にした金属製の鎮圧ピッケルで運転席の窓をいきなりたたき壊して、車内に発煙弾を投げ込んだ。かなりの荒っぽさである。

 それを合図に包囲していた第一係の車両8台は、一斉にヘッドライトを点灯する。中から男女が出てきた。

 大部分は観念して大人しく逮捕されたが、逃走を図る者もいた。

 マイクロバスの中で大胆にも集団性行為をしていたのだ。

 逃げ出す男女は電撃銃で撃ち倒されて、次々と逮捕されてしまう。

 係長は、いつもの手際の良さで、この雨の中、びしょ濡れになりながら、2人を採精した。

 2人目は、逃走を図ろうとしたものの観念したのか、かなり海岸部まで追いかけられて採精バキュームをかけられた。

 だが、この男は、精力があり余っていた。

 採精された直後に、元気を回復して、係長に襲いかかってきたのだ。

 雨足が激しいのと波の音で『きゃー、なにするのよ!』と叫んだ声が、どこにも届かない。

 『どうせ。俺は採精刑務所行だ。おまえも巻き添えにしてやる』

 男は、係長を押し倒して、もともとむき出しの下半身を押し付けようとする。

 激しい雨音と、波の音、風の音を通して、芋縄の耳は、かすかに届く係長の悲鳴を感知した。

 それは、芋縄がたえず係長のことを注意していていたからこそ、かすかな悲鳴を聞き分けられたのだと、あとから思った。

 その時は夢中で、芋縄は悲鳴の方向を察知して走った。

           (以下次回)


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