化粧女王を探す長い旅 by 大王

2005-06-06 【国家健全化計画2005】1 辞令交付さる、の巻

[国家健全化計画]

 【国家健全化計画2005】1 辞令交付さる、の巻

 芋縄一輝(いもなわかずてる)は、次のような辞令をもらった。

 職員識別番号 703311410 氏    名 芋縄 一輝

 紀元2665年9月25日付発令

 健全計画推進局健全計画推進部街宣第一課配属を命ず

      (国家健全大臣署名捺印)

 配属初日、芋縄は課長にあいさつに出かけると『おまえ、着任したばかりで、もうしわけないが、きょう、刈り込みがある。手がいるんだ。制服の支給を受けたら、第一係長の指揮を受けて、今晩すぐに出てくれ』と言われた。 「刈り込み」って、何だろうなと、芋縄は思ったが、素人扱いされたくないのであとで、調べるとして、『はい』とだけ、返事をした。

 課長は、年が32歳というが、頭はずりむけたように地肌が露出しているし外見上は50近いじじいにも見える。目がしょぼしょぼしていて、どこを見ながら話しをしているのかよく分からない。

 しかし、32歳で課長になったんだから仕事は出来るのだろう。健全省の本流といわれる街宣部の中で、ずいぶんと功績をあげたからこそ、この地位にいるのだ。

 そうおもってあらためて風采のあがらないおっさんを見た。ずりむけ課長の、しょぼくれた目の奥が目が会うと一瞬だけ、ぎら!と輝いたように見えたが、それは気のせいだったろうか。

 そうして、はっきりいって、ぶ男の課長を見ながら、芋縄は思った。

 『おれもやるぞ!もてない男のひがみのすべてを注入して、この業務に精励するのだふふ、ふふふふふふ、ふふふふふふふ、ふふふ、ようし、やるぞ、ふふふふふふ、ようーしやったるぞ、腐婦不賦父ふふふふ、うふふふふふ』

 笑いが止まらなくなった。ぶ男の頭ずりむけ課長は、そんな芋縄を、じろりと見て『おまえも、暗い怒りを内攻させて人生を生きてきたようだな。けっこうだ。大いに結構。ぞんぶんにはたらきたまえ。ここは、おまえのような者が力をふるうところだ。さあ、行け芋縄。おまえは第一係長の指揮をうけるんだ。係長は採精バキュームの使い手として、ことし国家健全大臣表彰を受けたばかりだ。おまえの指導役としては、申し分ない係長だ』

 『はい!』

 芋縄は第一係長を訪ねるべく、勇んで出て行こうとしたが、ずりむけ課長が呼び止めた。

 『待て』

 『は。。?』

 『念を押しておくが、第一係長は、女だ。しかもおまえが、これまでの人生で、あるいはこの仕事をしなければ、今後の人生でもまったく縁がなかったであろうほどの美人だ。採精バキュームを使うには、このふたつの要件が必要なので、国家は必要に迫られて、彼女たちを配置しているのだ。そこで、おまえに念を押しておきたいのだが。もしもだ』

 ずりむけ課長のしょぼくれた目が、一瞬くわああああっと見開かれた。

 『もしもだ。おまえが上司に劣情を催し、いんびな所行を働いたときは、わかっているだろうな。すべての特権は剥奪され、採精刑務所で生涯を送ることになる。国家健全法に反した犯罪者と同じようにな。そのことを忘れるなよ』

 ごくりと唾を飲んだ。

 さすがは、課長だ。このすごみがあるからこそ、風采はあがらなくとも、この若さで、このぶ男ぶりながら、国家健全省の出世畑を歩んでいるのだ。

 芋縄は身を引き締めて、課長の前を退出し、美人といわれる第一係長を訪ねた。

         (以下次回)


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