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パロディ小説(パラフィクション)「『スペイン岬の秘密』の不都合な真実」④

(エラリー・クイーン『スペイン岬の秘密』の真相部分に触れておりますので、かならず作品を、できることなら越前敏弥先生と国弘喜美さんの新訳でお読みになってから、お読みください。作中のページ数は、角川文庫・新訳版のものです。)

        従者テイラーからエラリー・クイーン様へ宛てた手紙(4)

「では、デイヴィッド様が、それこそ命がけで守りたいと思われる人物は、どなたか。いうまでもなく、それは姪御のローザ様です。では、ローザ様に、どのような不都合な秘密があったのでしょうか。申しあげることもはばかられるのですが、私はエラリー様の名誉のため、あえてここに記しておきたいのです。もし私が的はずれな妄想を述べているだけでしたら、どうか一笑にふされた後、この愚劣なる手紙をば暖炉で燃やしていただければ幸甚に思います。

デイヴィッド様が隠し通したこと、そして、自らが犯罪者となってまで守り通したかったローザ様の秘密とは。さらに申しあげるならエラリー様も最後まで決して明るみに出そうとされなかった真実とは何か。それは、このおふたりが本当の恋愛関係にあったということに他なりません。いえ、貴方様は反論なさるかもしれません。作品の中に、それはありないと書いておいたと。たしかに貴方様は、作中でこのように書かれていました。「ローザと長身の叔父とのあいだには何も――邪な意味で何事も――なかった。ふたりの愛情は血のつながりを重んじたものであり、それ以外のことを疑われたらどちらも憤慨しただろう。そのうえ、二十近くも歳が離れている。」(P.18)

しかし、よくよく考えてみますれば、このような断り書きが、なぜ必要だったのでしょうか。むしろ、貴方様の書かれたことにより二十歳も離れた叔父と姪の仲のよさは、恋愛と同じような雰囲気を漂わせていたということが判明してしまいます。書かれる必要性のないことが書かれているという、まさにそのことが、書かれていることと逆の事態がありえたことを雄弁に物語っています。「邪な意味」で申しあげるなら「近親相姦」が行われていた可能性すらあるということです。デイヴィッド様やローザ様、いえ、おふたりだけでなくゴドフリー家の人々にとって隠し通さなければならない最重要秘密があったとするならば、まさに、このことをおいて他には考えられないのです。マーコ様の死後、夫ウォルター様に自分の不貞を告白までされたステラ様が犯行に及ばれていたとするなら、単に守られねばならない秘密がご自身のことだけではなかったことを物語っているのかもしれません。(そもそも、この告白劇、このご夫婦の狂言だったんじゃないでしょうか)。そして、この「許されざる愛」を知っておられたマーコ様が脅迫のネタにされていたとするなら、それこそ氏の命が狙われた一番の原因になりえたことは、もはや疑いようがないのです。デイヴィッド様の姉君ステラ様が、この秘密をネタに関係を迫られていた可能性も出てくるのです。

さて、そういたしますと、奥様方にもデイヴィッド様にも(さらに申しあげるならローザ様にも)マーコ様殺害の動機はあったことになり、実際の犯罪がどなたの手によって実行されたのか断定することが難しくなってまいります。少なくとも私には、それを決定する材料はないように思われます。おおよそ考えられうる可能性を挙げさせていただくとすれば、
(1)もともとデイヴィッド様とステラ様たち(ローラ様とセシリア様も)が共謀されており、どちらか早くマーコ様を殺せる方が殺した。
(2)たまたまデイヴィッド様とステラ様たち(ローラ様とセシリア様も)が同時に殺害計画を思いつき、どちらか早くマーコ様を殺せる方が殺した。
(3)デイヴィッド様とステラ様たち(ローラ様とセシリア様も)共に殺害現場に居合わせ、どちらかが殺害したように見せかけ捜査を混乱させようとした。
といったところでしょうか。

こうなってきますとエラリー様が下された推理のみが真実とはいえなくなってまいりますが、そこは貴方様のこと、総てをお見通しのうえで、ローザ様とデイヴィッド様を守り通されたとしか、私には考えられないのです。ディヴィド様もご自分が姪御を愛してしまうことが許されないことだと重々承知しておられ、ローザ様がアール・コート様と結婚されることを強く望まれていたのでしょう。ローザ様もデイヴィッド様への愛を吹っ切らねばならないと思われ、何とかコート様を愛そうとはされたのですが、それが本当の想いにはならなかったということなのでしょう。そのような人間的悲劇に人一倍敏感なのが、まさにエラリー様というお方だと私は承知いたしております。

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