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パロディ小説(パラフィクション)「『スペイン岬の秘密』の不都合な真実」③

(エラリー・クイーン『スペイン岬の秘密』の真相部分に触れておりますので、かならず作品を、できることなら越前敏弥先生と国弘喜美さんの新訳でお読みになってから、お読みください。)

      従者テイラーからエラリー・クイーン様へ宛てた手紙(3)

「そして貴方様は巧みな消去法によって(5)の結論にいたったわけです。おそらく多くの人は遺体が裸体であることの奇抜さに目を奪われて、その理由を冷静に分析しようとは考えないでしょう。さらに貴方様が最後に指摘された(5)の理由を思いつける人も希有なのではないでしょうか。あまりにもお見事なご意見を聞かせていただくと、人はそれ以上考えなくなるものです。しかし、私のような天邪鬼は、いったい犯人は水着を身につけていなかったのかという点も気になってしまうのですが、それ以上に、どうしても貴方様が考えつかれた理由以外の理由があるのではないかと想像してしまいます。そこで私が考えついた理由は、次のようなものです。

(6)犯人の目的は復讐であり、被害者の遺体をさらしものにして辱めを与えたかった。

もし、これが本当の理由だといたしますなら、マーコ様から脅迫を受けていた女性たちも充分に容疑者となる可能性は出てくるのでございます。

さて、そこで先の疑問に戻らせていただきますが、はたして本当にマーコ様が「恐喝される者たち」をゴドフリー邸に呼び集めていたのでしょうか。マーコ様が呼び寄せたというのは、飽くまでステラ様御自身が証言していたことです。ステラ様はマーコに脅されて、ローラ・コンスタンブル様やセシリア・マン様を招いたと言ってはおられましたが、もし、その言葉に嘘があったとしたなら、どうなるのでしょうか。私は、ここでもうひとつの可能性を示唆してみたいと考えております。

もうひとつの可能性とは、すなわち、実はステラ様御自身が自分の判断でローラ様やセシリア様を招いたということです。では何のために。実は奥様たちは協力し合ってマーコ様を亡き者にしようとお考えだったのではないでしょうか。遺体を裸のまま放置したのは、自分たちがさんざん脅されてきたことに対する報復を意味しており、憎きマーコ様に辱めを与えることを、奥様たちは望まれていたのかもしれません。

私がミステリー好きであることは、エラリー様にお目にかかったときに言わせていただきました。この事件に接して、私はアガサ・クリスティーのある有名なミステリーを思い出しました。それは犯人たちが報復のために、被害者の遺体に何カ所も傷をつけるというものでした。ステラ様たちも、できることならマーコ様を傷だらけにしたかったのかもしれません。しかし、何らかの物理的な事情により、それがかなわず裸体のまま放置することになったという可能性があるのです。

こうなりますと、デイヴィッド様は奥様たちをかばってご自分が犯人だと名乗り出たことになりますが、はたして氏には、嘘までついて犯人に成り切らねばならない理由があったのでしょうか。おそらく、勇気ある男性が自分を犠牲にしてまで何かを守らなければならないと考えるときは、間違いなくその背後に愛する者を守りたいという情熱があるものです。では、いったいデイヴィッド様は、どなたに対する情熱をお持ちだったのでしょうか。

姉のステラ様か。しかし、デイヴィッド様の情熱には、単に肉親を守りたいという以上のものが感じられます。ローラ様かセシリア様をデイヴィッド様は密かに愛しておられたのか。その可能性を否定しつくことはできないのですが、どうも私は、そのように感じることができないのです。デイヴィッド様が、この二人の夫人に恋心を抱く姿は、どう転んでも想像できません。私は、それ以上に強く氏が守りたいと願う人物がいたと考えます。また、例えばローラ様やセシリア様のマーコ様殺害計画をデイヴィッド様が事前に察知されていたと考えるなら、氏はこの無謀な行為を止めることもできたはずなのです。にもかかわらず、むしろデイヴィッド様はマーコ様を亡き者にしようという計画に積極的に協力しようとしています。氏自身が何としてでもマーコ様を抹殺したいと願っていたことは間違いないのです。それはやはり、そうまでしてデイヴィッド様に守りたい人物がいらっしゃったからに他ならないのです。

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