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クリスティー『マギンティ夫人は死んだ』論④(ファイナル)

(アガサ・クリスティー作『マギンティ夫人は死んだ』の真相部分に言及しますのでご注意ください。)
 さて、この物語のサイド・ストーリーは事件解決後の青年ベントリイの恋愛問題です。ベントリイ青年を救おうとしたモード・ウィリアムズではなく、デアドリイ・ヘンダースンが本命だったというドンデン返しがついているのですが、物語の途中でベントリイが罠にかかったデアドリイの犬を救済していたという伏線は用意されていました。実は、凶器に使われたシュガー・カッターに関する件で、事件解決後もやや不鮮明に終わっている問題があります。まず犯行当時、凶器があった場所が問題になっていました。その凶器がバザーに出品されていた時期によって、サマーヘイズ家にあったのかウェザビイ家(デアドリイの家)にあったのかが違ってくるのです。場所については、最後に真犯人が誰であったのかという問題と同じように解明されるのですが、その件に対してポアロがデアドリイにたずねたときの不自然な応答の問題は残ったままです。ポアロがシュガー・カッターについて聞いたとき、彼女は「なぜ、そのようなことを聞くのか」という誰でもが口にする質問を一切しなかったのです。ひょっとしたら、すでに彼女は何が凶器として使われたかを知っていた、ということは犯人を知っていたという可能性があります。アップワード夫人が殺害された夜、四人の女性が電話で夫人の家に呼び出されるのですが、デアドリイだけが呼び出しに応じています。そのことにも何か理由があったのかもしれません。(実際にデアドリイを呼び出したのが被害者だったのか犯人だったのか不鮮明なところはありますが・・・)。デアドリイと犯人は恋仲で、彼女は利用されていたのかもしれません。もし、そうだとすれば不幸な恋をしたデアドリイがベントリイ青年と幸福な結婚をすることをポアロが強く望んだこともうなずけます。
 ドラマ化をするに際しては、どの要素を割愛するかがは重要な問題になるでしょう。例えば、不必要な容疑者は抹消されてもいいでしょうが、あまり人数を減らしてしまうと真犯人が絞られやすくなってしまいます。ドラマでは、新聞の記事に掲載されていた女性の人数が四人から二人に減らされていたり、デアドリイも含めウェザビイの家族が割愛されていたりする一方で、増やされている要素もありました。ベントリイが詩を解する青年として設定されているのも独特なのですが、郵便局のミセス・スイーティマンとジョー・バーチ(マギンティ夫人の姪の夫)が不倫関係にあるという設定はドラマだけにあるものです。原作では、ジュン・バーチと初対面ポアロは一旦その様子に不審なものを感じるのですが、例の古新聞が発見された段階で、この姪夫婦は容疑者から、さらには登場人物たちからも枠外におかれた感じがします。ドラマの方は、この姪夫婦も最後まで容疑者の頭数に入れています。ドラマの方は、そのように設定をアレンジすることにより、原作にはない味わいを作り出しています。
 

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