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クリスティー『マギンティ夫人は死んだ』論②

 (アガサ・クリスティー作『マギンティ夫人は死んだ』の真相部分に言及しますのでご注意ください。)
 切り抜かれた記事は、かつて意図せずに犯罪に関わってしまった四人の女性に関するものでした。そこから、記事に掲載されていたものと同じ写真を、村人の誰かの家で目撃していたマギンティ夫人が殺害されてしまったという仮説が次に立てられることになります。ポアロは物事を転倒させて考えてみるというお得意の思考法によって、真相に迫っていくのですが、最終的に犯人を決定づけることになるのは、実はこの記事の内容が間違っているということに彼が気づいたからでした。
 記事の間違いを発見する直前のポアロは、被害者と加害者を転倒させるという発想法により、あたかも被害者であるかのようにあつかわれていたエヴァ・ケインがまぎれもない加害者であり、彼女の計画によって殺された女性(クレイグの妻)の娘が復讐のため犯行におよんだということまで見抜いています。この時点では違った犯人を指摘してしまう可能性もあったのですが、ポアロは事件の時間的な経緯を再確認することによって、「娘を息子に」そして「実子を養子に」逆転させて考察し、真相に到達しています。実は、この記事に書かれた内容に関しては、すでに二点ほど間違いが指摘されていました。クレイグ事件が起こった年号が一年ずれていたことと、事件後エヴァ・ケインが身をおいたのはアメリカではなくオーストラリアだったことです。マスコミがいかに不正確な情報をもたらすかという問題でもあるのですが、ある事柄の間違いを見つけたとき、おおむね人はそれ以上の間違いがあるとは考えないものです。徹底的に疑い続けるということは、それだけ難しいものなのかもしれません。
 

  

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