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パロディ小説(パラフィクション)「『災厄の町』の最悪な結末」③

(エラリイ・クイーン『災厄の町』の真相部分に触れておりますので、かならず作品を、できることならハヤカワ文庫の越前敏弥先生の新訳でお読みになってから、お読みください。文中に記載されているページ数は、そのハヤカワ文庫版のものです。)

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この家の風評が自然に発生したものなのか、誰かによって捏造されていたものなのか、作品を読んで判断することはできない。しかし、もし後者だったとした場合、例えばジムが激怒した理由は、「災厄の家」が建てられた「場所」に問題があったとも考えられる。その敷地の地面の下には何かが隠されていたのだ。ところが「災厄の家」が建てられてしまったがゆえに、それが取り出せなくなってしまった。それが三年経った頃、何らかの理由があって取り出すことが可能になったのだ。また、ひょっとしたら不動産屋のペティグルーがグルだったのかもしれないが、最初に家を買おうとしたハンター氏が急死したのも、決して自然死ではなく、この家に人を住まわせないための謀略だったと考えられないだろうか。

それとも隠されていたのは公には離婚したことになっている長女ローラの夫の死体だったのかもしれない。駆け落ちしたのはよかったが、その後ローラには新たな恋人ができてしまい、巡業役者だった夫は殺されて一時的にライト家の隣の敷地に埋められてしまった。後から他の場所に移動させて永遠に放棄される予定だったのが、そこに「災厄の家」が建てられてしまったというわけだ。新たな恋人こそ実はジム・ヘイトだった。彼が書き残していた手紙は自分の妻を殺すかのよう見せかけた暗号で、本当のターゲットはローラの夫だった。そこまで考えると、あそこまでローラとジムが親しかった理由もうなずけるのだが、ジムが死んでしまった今となっては総てが闇に葬られてしまった。しかし、この推理をここまで進めてきたところで浮かびあがってくるは、この「災厄の家」にあえて住もうと考えたある人物が、のこのこライツヴィルにやって来ていたという問題なのである。

さて、エラリイさん、そろそろ事件の真犯人を挙げようではないか。今まで積み重ねてきた推理に基づけば、どう考えてもジムが犯人だと考えるのが妥当だ。しかし、困ったことに、誠に困ったことにエラリイさんはジムが絶対に毒物を混入しなかった、その場にいて自分は一瞬たりとも目を離さなかったと主張している。あのときの証言が嘘だったなら嘘だと、どうか正直に言ってほしい。あるいは貴方にはノーラを犯人に仕立てあげる必要性があったのだろうか。それにしてもノーラ犯人説には無理がありすぎる。ではジムでもノーラでもなく毒物が混入でき、ローズマリーを死に至らしめることができた人物は誰なのか。もはや答えは明白だ。エラリイ・スミスさん、貴方だよ。貴方以外に考えられない。

さてさてエラリイ・スミスさん。そろそろ正体を明かしたらどうだろうか。貴方いったい誰なんだ。本当にうまく化けたものだよ。間違いなく多くの読者も騙されたことだろう。自分を名探偵エラリイ・クイーンに仕立てあげるなど、簡単にできる技じゃない。この『災厄の町』の中に、いつものクイーン警視やJ.J.マックが登場しなかったのも当然である。かつてエラリイ・クイーンの講演会を聴いていたパットが、貴方の顔を記憶違いしていたのが幸いだったね(p91)。これ幸いと名探偵に化け通すことを思いついた、この点で今回の事件では貴方の完全勝利だったといえる。

それでは貴方の動機は何だったのだろうか。いや、貴方には殺人の動機など必要なかった。貴方がノーラの命を狙う理由はない。もちろんローズマリーを狙うこともできなかったはずだ。要は、この「災厄の家」で忌まわしいことさえ起こればよかったのだ。そうすれば人々の足は再びここから遠のく。間違いなく貴方は何らかの方法でジムが何かをここに隠していたことを知ったのだろう。後はただ、ほとぼりが冷めた頃この家から隠し続けられたものを取り出しさえすればよかったのだ。それが貴方の真の動機だったわけだが、この「災厄の家」に隠されていたものを見つけるか、この下に埋められていたものが掘り出されれば、自ずと真相は明らかにされるであろう。ハンター氏の死が殺人であったことも証明できるかもしれない。

しかしながら、ここまで推理を進めてきて、結局何も出てこないのではないかというのが、私のたどりついた結論である。もちろん徹底的に「災厄の家」を家捜ししてみて初めて判明することではある。それでも私に明白なのは、もし隠匿物を見つけるために殺人を犯していたとするなら、貴方はジムが毒物を混入するところを見たと法廷で主張しさえすればよかったはずなのである。にもかかわらず頑強にジムは毒物を混入していないと貴方は言い張った。さらには自分が毒物を混入できたとまで表明していた。まさにその一点によって、貴方が殺人という行為におよんだ、もっと高次の理由があると、私には思われて仕方がないのだ。何よりも目につくのは、あまりにも貴方の顔が名探偵エラリイ・クイーンに似ているということである。それが双子に見紛うほど瓜二つなのだ。パットが貴方をエラリイ・クイーンだと思い込んだのも無理はない。思うに貴方は整形手術を受けたのではないのかね。そして貴方こそ『シャム双子の秘密』に登場していた謎の男スミスではないのか。当時一介の脅し屋に過ぎなかった貴方は、極限状態で披露されたエラリイ・クイーンの名推理を目の当たりにし、この名探偵と同化してしまった。貴方は顔に手術まで施し、身も心もエラリイ・クイーンと一体化して人生をやり直すつもりだった。ところが、貴方の精神に乖離が起こり始めたんだろう。『チャイナ蜜柑の秘密』や『スペイン岬の秘密』を読むうちに、だんだん貴方はエラリイ・クイーンを名探偵だとは思えなくなってきたのではないのかね。自分の中にいるエラリイ・クイーンを許せなくなったといったところだろう。

貴方は密かに毒物を混入した。狙う対象は誰でもよかったのだ。この無差別殺人は、むしろアガサ・クリスティーの作品に描かれていたパターンだ。あるクリステイーの作品においては。殺害後に証拠を隠滅するトリックまで用いられていたのだが、現実的には残念ながらそこまでうまくできなかったようだね。自身がエラリイ・クイーンであることに耐えられなくなった貴方の精神が、アガサ・クリスティーの考案したトリックを実現することによって、新たな別の人格を生きようとした。エラリイ・クイーンよりアガサ・クリスティーの方がはるかに優れた作家であることを立証することによって、自分の中にあるエラリイ・クイーン性を否定したかったんだろう。簡単に言ってしまえば、自分で自分を納得させたかったということだ。ところが実際にはトリックは完遂されず、ジムは逮捕され、はちゃめちゃな裁判まで開廷されることになってしまった。「災厄の町」で起こった事件は、何とも「最悪の結末」を迎えることになってしまった。

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