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有栖川有栖さん『江神二郎の洞察』(東京創元社)

 「江神二郎シリーズ」と「火村英生シリーズ」は何が違うのか。「江神シリーズ」には「読者への挑戦状」がある、ということは「江神シリーズ」は徹底したフェア・プレイ精神に貫かれて描かれているということです(決して火村シリーズがアン・フェアだという意味ではありません・・・)。今回は短編集のゆえに「読者への挑戦状」こそありませんが、どの作品も真相にいたるまでの途中経過にはフェア・プレイ精神が貫徹されており、読者は真相を推理することが可能になっています(と思って読んでいたら今回の書き下ろし新作に作中作という形で「読者への挑戦状」が登場してきました)。
  フェア・プレイというのは、作者と読者との間での約束事です。しかし、事件の真相に無限のヴァリエーションが想定される以上、そもそも完璧な推理は成り立つはずがないのです。したがって、この約束事は読者が程よく騙された場合は作者の勝利という暗黙の項目も含まれているといえるのです。
  「四分間では短すぎる」の中で、英都大学推理研究会のメンバーが『点と線』(松本清張)と『ニッポン樫鳥の謎』(エラリー・クイーン)を比較して論じるところが面白かったです。
ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」にまつわるエピソードもまた然り。「ミステリとは何かみたいな話は禁止」としながらも、平素このメンバー達がどんな論議に時間を費やしていたか、よくわかりました。
 タッカー・コウの『蝋のりんご』っていう作品も読みたくなりました。有栖川さんの新作『論理爆弾』が楽しみです。
 

 

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