書籍

『愛しいあなた』劉梓潔

現代台湾文学選3
「愛しいあなた」親愛的小孩
劉梓潔 著 明田川聡士 訳

四六、上製、224ページ
定価:本体1,900円+税
ISBN978-4-86385-546-5 C0097

装幀 木庭貴信+オクターヴ
カバー写真 shilun

 

何を書くか、どうコラージュするのか、その細かな取捨選択に宿る煌めき。
読みながら、自分が出会ってきたあらゆる愛しい人を思い浮かべたけれど、読み終える頃にはこの小説が、愛しいあなたになっていた。
――​金原ひとみ(小説家)

 

エッセイ・リウは生来のストーリーテラーだ。独特の作風には絶えず比喩が混ざり込む――きっぱりと鋭く、びっくりするほど。彼女の短編小説を読んでいると、ラインすれすれに打ち込む一流のテニス選手のように思えてくる。一回打っては打ち返し、正確にしかもリズミカルなラリーが続く。目の前ではずっと続くように思えていても、突然のスピンボールに相手が戸惑っている時、ポイントを奪ってしまう。読者は短編小説を読んでいくうちに物語に引き込まれ、劉梓潔の世界に完全に入り込んでしまう。
――侯文詠(作家・医師)

 

劉梓潔は二十一世紀台湾人女性の声を代弁する。物語を紡ぐ時、不要な説明は避け、場と場を繫ぐ説明も省かれる。彼女が描き出す言葉には強い自信が表れ、受け身で、解釈されることを待ち、意味づけされるのを受け入れるだけの女性は出てこない。物語をシーンごとに繫げていくと、それはまたカットごとに自ずと繫がっていくのである。女性の物語や男女の物語はここから語り出されるのだ。
――陳芳明(台湾文学研究者)

 

『父の初七日』監督・脚本のエッセイ・リウ。
映画の原作エッセイがベストセラーとなった作家の最初の短編小説集。

子供が欲しい。でもそれってホルモンのせい?でも、過ぎてしまえばそれでいいなんて私は思わない…「愛しいあなた」。母親には永遠にわからないだろう。それは四倍の愛なのだ。母と父の役目で二乗。会えなかった最初の息子の分でさらに二乗だって…「プレゼント」。私は年上の人しか好きになれないんです。父の秘密と私の恋…「失明」。台湾の現代女性の愛と痛みを衝動的に描いた短編小説集10編。

 

試し読みはこちら:収録作「愛しいあなた」冒頭より

 

【著者プロフィール】
劉梓潔(エッセイ・リウ / Essay Liu)
1980年、台湾・彰化県生まれ。小説家、脚本家、台湾・逢甲大学人文社会学院専任教授。国立台湾師範大学社会教育学系卒業。著作に長編小説『希望你也在這裡』(2021年)、『外面的世界』(2018年)、『真的』(2016年)、短編小説集『自由遊戯』(2019年)、『遇見』(2014年)、エッセイ集『化城』(2022年)、『父後七日』(2010年)など。映像作品に台湾映画『痴情男子漢』(脚本、2017年)、『父後七日』(監督・脚本、2009年)、台湾ドラマ『滾石愛情故事』(脚本、2016年)、『徴婚啓事』(脚本、2014年)など。受賞歴に金馬奨最佳改編劇本賞(2010年)、台北電影節最佳編劇賞(2010年)、林栄三文学賞(2006年)、聯合文学小説新人賞(2003年)など多数。

【訳者プロフィール】
明田川聡士(あけたがわ・さとし)
1981年、千葉県生まれ。獨協大学国際教養学部専任講師。早稲田大学第一文学部卒業、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。専攻は台湾文学・台湾映画。著書に『戦後台湾の文学と歴史、社会』(単著、関西学院大学出版会、2022年)、『越境する中国文学』(共著、東方書店、2018年)、『台湾研究新視界』(共著、台北・麦田出版、2012年)など。翻訳に黄崇凱『冥王星より遠いところ』(単訳、書肆侃侃房、2021年)、李喬『藍彩霞の春』(単訳、未知谷、2018年)、李喬『曠野にひとり』(共訳、研文出版、2014年)など。



【現代台湾文学選】
台湾の現代文学には、激動の時代の空気感を伝えるだけでなく、現在の台湾の人びとの抱える問題が色濃く反映されている。ただ、観光に行くだけでなく、人々の暮らしや思いにも心を寄せてみたい。小説の中には私たちが知らない台湾の姿が色濃く滲んでいるにちがいない。

 

【「現代台湾文学選」刊行にあたって】
書肆侃侃房が手がけるアジア文学のなかで、台湾現代文学選が加わりました。すでに話題作も翻訳出版されているが、書肆侃侃房では、現在、台湾だけでなく、世界中の人々の関心が高く興味深い作品を選んでいきたい。「台湾文学」っておもしろいね、という作品を紹介していくつもりです。

掲載情報

FIGARO2023年2月号

《台湾の人気脚本家による初の小説集で描かれるのは、性と愛の間で揺れる女性たちの物語だ。(……)ベットの上で起こった事実を淡々と現場検証していくようなさらりとした筆致で、結局結ばれなかった恋のいとおしさを描き出す》