書籍

『第九の波』 チェ・ウンミ

Woman's Best 11 韓国女性文学シリーズ8
『第九の波』아홉번째 파도
チェ・ウンミ 著
橋本智保 訳

四六、並製、384ページ
定価:本体1,900円+税
ISBN978-4-86385-417-8 C0097

装幀 成原亜美
装画 のせなおみ

 

思わず息を詰めていた。市民の健康より利権や金を優先する政治と大企業、監視し合う人々……2012年の事件を題材とする本作のきな臭い空気がいまの日本に重なる。深呼吸するためには、主人公のように自らもがかねばならない。
――小山田浩子(小説家)

 

東海岸の町、陟州をご存知だろうか。石灰鉱山にまつわる謎の死、カルト宗教団、原子力発電所の誘致をめぐる対立などが混在し、欲望が渦巻く陟州を。驚くほど詳細なディテールで描かれた、いまにも手が届きそうなほど鮮明で、恐ろしいほどリアルな陟州を舞台に、この地で苦しい思春期を送った3人が再び舞い戻り、繰り広げられる憎しみと羨望のドラマがゆっくりと浮かび上がる。しかし、何といってもこの小説が読者の胸を熱くさせるのは、彼らのラブストーリーだ。こんなにのめり込んだ悲しい愛の大叙事詩は久しぶりだ。さすが『目連正伝』を書いたチェ・ウンミだが、これが初めての長編小説だとは。驚きだ。
――クォン・ヨソン(小説家・『春の宵』著者)


この作品は、2012年、江原道にある町で実際に起こった事件をモチーフにしているが、ルポや告発小説とは異なる。ソン・イナ、ユン・テジン、ソ・サンファという主人公を通して、一見平和そうな田舎の小さな町の裏側を生々しく描く。そこには富の分配から疎外され、不条理な生活を強いられた人々がいる。著者のチェ・ウンミは、陟州を金と権力によって手中に収めようとする者たちが現れるのも、私たちの生きている社会に問題があるのではないかと問い続ける。
作品の最後の方でソン・イナが、荒波が押し寄せては引いていく陟州の海岸をゆっくり歩いていくシーンがある。『第九の波』は、それでも私たちはこの社会で戦いながら生きていかなければならないという、チェ・ウンミ文学らしいテーマを垣間見せてくれる。
『第九の波』というタイトルは、19世紀ロシアの海洋画家イヴァン・アイヴァゾフスキーの代表作から取っている。


2020年9月中旬全国書店にて発売。

 

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【著者プロフィール】
チェ・ウンミ(崔銀美/
최은미)
1978年、江原道インジェ生まれ。東国大学史学科を卒業したあと、仏学研究所に勤める。2008年『現代文学』の新人推薦に短編小説「泣いて行く」が当選し、作家としてデビュー。いま最も注目される作家の一人である。
小説集に『あまりに美しい夢』『目連正伝』、中編小説に『昨日は春』、長編小説には『第九の波』がある。2014、2015、2017年と続けて若い作家賞を受賞。本書『第九の波』は、緻密な描写力と卓越した洞察力が評され、2018年大山文学賞を受賞した。どの作品にも著者の仏教的な世界観が垣間見られる。


【訳者プロフィール】
橋本智保(はしもと・ちほ)
1972年生まれ。東京外国語大学朝鮮語科を経て、ソウル大学国語国文学科修士課程修了。
訳書に、鄭智我『歳月』、千雲寧『生姜』(ともに新幹社)、李炳注『関釜連絡船(上・下)』(藤原書店)、朴婉緒『あの山は、本当にそこにあったのだろうか』(かんよう出版)、クォン・ヨソン『春の宵』(書肆侃侃房)、ウン・ヒギョン『鳥のおくりもの』(段々社)、キム・ヨンス『夜は歌う』(新泉社)など。

『第九の波』刊行記念 チェ・ウンミさん×小山田浩子さんトークイベントを開催します。

『第九の波』刊行記念 チェ・ウンミさん×小山田浩子さんトークイベント

韓国女性文学シリーズチェ・ウンミ『第九の波』が書肆侃侃房より9月に刊行されます。
本書の刊行を記念して、著者のチェ・ウンミさんと小説家の小山田浩子さんによるオンライントークイベントを開催します。

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日時:2020年9月26日(土)16:00~18:00
出演:チェ・ウンミさん(『第九の波』著者)、小山田浩子さん(小説家)
配信方法:ZOOM(定員100名)
※イベントURLは、9月24日(木)までにお申込みいただいたみなさまに、一斉メールさせていただきます。それ以降お申込みの場合は、イベント当日の12時までにメールをお送りいたします。
参加費:無料
主催:書肆侃侃房/後援:韓国文学翻訳院
お問い合わせ:ajirobooks@gmail.com(担当:加藤)
応募フォームはこちら

書評

「毎日新聞」(2020年10月3日)

《本書はルポや告発小説とは趣を異にする。あとがきでチェが〈人が人を愛することについて書きたいと思いました〉と記する通り、恋愛が重要な柱となっている》

ハフポスト日本版」(2020年10月17日) 評者=斎藤真理子さん

《ぐいぐい読ませる社会派エンタメ小説であるとともに、哀切なラブストーリーでもある》

統一日報」(2020年10月21日)

《姿を見せ始める過去の事件、活動を再開した新興宗教団体の事件、活動を再開した新興宗教団体の不気味な影。彼らは第9の波をやり過ごせたのか》

「サンデー毎日」(2020年12月6日) 評者=岡崎武志さん

《若者の緻密な描写は確かで、読者の心をつかみ巻き込んでいく。社会への問題意識を提起するだけではなく、根底に愛がある。波が打ち寄せてくるような作品だ》

「日本経済新聞」(2020年12月7日)オンライン 小山田浩子: 日本経済新聞