書籍

『マレー素描集』アルフィアン・サアット

『マレー素描集』
アルフィアン・サアット
藤井光訳

四六判変形、上製、248ページ
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-464-2 C0097

装幀 佐々木暁

わたしたちの居場所はどこにあるのか?

48の掌編のつらなりによって現在のシンガポール社会を巧みに描き出したマレー系作家による短編集。

フランク・オコナー国際短編賞候補。

朝日新聞(温又柔さん)、日本経済新聞(蜂飼耳さん)、ダ・ヴィンチ(倉本さおりさん)本の雑誌(藤ふくろうさん)、エル・ジャポン(石井千湖さん)ほかぞくぞく書評掲載!

 

表彰式で大統領と握手ができなかった学生、ふと交番に現れて無言で去っていく女性、認知症の進行を認めず、マレーの民話に出てくる幽霊「トヨール」のしわざだと言い募る父親と同居する息子──。

シンガポールがイギリス領の一部だった19世紀末に総督フランク・スウェッテナムが執筆した『Malay Sketches』。それから100年以上を経た現在、アルフィアン・サアットによって新たに同名の作品が書かれた。イギリス人統治者が支配下にあるマレー人の文化や気質を支配言語である英語を用いて読者に紹介するという『Malay Sketches』の構図を大胆に再利用するかたちで本書は誕生する。

 

2021年10月上旬全国書店にて発売。

 

【訳者解説より】

しばしば困難な状況に置かれた人々を取り上げつつ、その喜怒哀楽を丹念に追うサアットの筆致の根底には「人が生きること」に対する信頼や愛情といった感覚があるのだといっていい。

それが、『マレー素描集』に独特の開かれた雰囲気を生み出している。(藤井光)

 

【著者プロフィール】

アルフィアン・サアット(Alfian Sa'at)

1977年シンガポール生まれ。ラッフルズ・ジュニアカレッジ在籍時から演劇の創作で注目される。1998年に詩人としてデビューを飾り、1999年には短編集『サヤン、シンガポール』を発表。マレー語と英語での創作活動を続け、シンガポールでは多数の受賞歴を誇る。ほかに詩集『記憶喪失の歴史』『透明な原稿』、戯曲『アジアン・ボーイズ』三部作、『ナディラ』(いずれも未訳)。

 

【訳者プロフィール】

藤井光(ふじい・ひかる)

1980年大阪生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。東京大学文学部教授。主要訳書にS・プラセンシア『紙の民』、H・ブラーシム『死体展覧会』、M・ペンコフ『西欧の東』(以上、白水社)、D・アラルコン『ロスト・シティ・レディオ』、T・オブレヒト『タイガーズ・ワイフ』、A・ドーア『すべての見えない光』(第3回日本翻訳大賞受賞)、R・マカーイ『戦時の音楽』(以上、新潮社)、N・ドルナソ『サブリナ』(早川書房)など。

書評

京都新聞(10/30) 評者=宮迫憲彦さん(CAVA BOOKS)

《誠実でウイットに富んだ方法で、マレー人の複雑さ、文化、そして長所と短所、そして愛すべきマレー系の人々の人生や生活を描いている》

日本経済新聞(11/13) 評者=蜂飼耳さん(詩人)

《『マレー素描集』には文学の原点と呼びたいものが宿る。人間の生に向けられた視線は、しなやかで強い》

朝日新聞(12/11) 評者=温又柔さん(小説家)

《シンガポールにいるあらゆる境遇のマレー系住民の人生や生活の断片を見事に「素描」〔……〕珠玉の掌編小説集》

ダ・ヴィンチ22年1月号「絶対読んで得する8冊」 評者=倉本さおりさん(書評家)

 《浮かび上がるのは、それぞれの足元に広がる微細でほろ苦いグラデーションであり、人の人生、それ自体の確かな奥行きなのだ》

エル・ジャポン22年1月号 評者=石井千湖さん

《華人の英語話者が中軸を担う社会でマイノリティとして生きる人々のさまざまな感情がスケッチされている(……)人と人を隔てるが結びつけもする言葉の奇跡を実感する》

図書新聞(22年1/1号) 評者=麻生享志さん

《サアットの作風を一言でいえば、中華系がおよそ四分の三を占めるシンガポール社会で周縁に追いやられてきたマレー系住民とLGBTQコミュニティの声を拾い上げることにある。(……)人々の日常と何気ない心の動きを捉えつつ、マレー社会の現在を描き出す》

本の雑誌(22年1月号) 評者=藤ふくろうさん

《マレー人たちはしばしば不意打ちのように、他者との〝溝〟に遭遇する。〔……〕フラットな視点がよい。多言語社会の光と影を、あたたかい目線と鮮やかな描写で描いたシンガポール小説》