書籍

『山羊と水葬』 くぼたのぞみ

『山羊と水葬』
くぼたのぞみ

四六判、並製、216ページ
定価:本体1,600円+税
ISBN978-4-86385-494-9 C0095
ブックデザイン:成原亜美(成原デザイン事務所)
装画:尾柳佳枝


この豊かに実のなる大樹の根っこはどうなっているんだろうと掘ってみたら、北海道の雪原や、ジャズや、アフリカの大地や、詩や、動物たちがざっくざっく出てきた。
くぼたさんの知とフェアネスと言語感覚は、こんなにたくさんの養分の上に育っていたのだ!――岸本佐知子〈翻訳家〉


吹雪もやんで、きらきらと雪原に光が反射して、目が痛いほど晴れわたる朝、山羊小屋から緊張した気配が伝わってきた。山羊が鼠捕りの毒だんごを食べたのだ。積雪は一メートルをゆうに超し、土まで掘るのはとても無理。凍った山羊の体を馬橇にのせて、吹雪のなかを石狩川の鉄橋へ。男たちが声を合わせて筵ごと持ちあげ、緑色の欄干の向こうへ落とす。水葬だ。水しぶきが見えたかどうか。白く煙る雪のなかに「それ」は消えていった。少女の記憶はそこでふっつり途切れる。
「山羊と水葬」より


2021年10月下旬発売予定です。


【著者プロフィール】
くぼたのぞみ
一九五〇年、北海道新十津川生まれ。翻訳家・詩人。
著書:『J・M・クッツェーと真実』(白水社)、『鏡のなかのボードレール』(共和国)
詩集:『風のなかの記憶』(自家版)、『山羊にひかれて』(書肆山田)、『愛のスクラップブック』(ミッドナイト・プレス)、『記憶のゆきを踏んで』(水牛/インスクリプト)
訳書:J・M・クッツェー『少年時代の写真』(白水社)、『マイケル・K』(岩波文庫)、『鉄の時代』(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-11、河出文庫)、『サマータイム、青年時代、少年時代││辺境からの三つの〈自伝〉』(インスクリプト)、ポール・オースターとの『往復書簡集』(共訳、岩波書店)、『ダスクランズ』『モラルの話』(共に人文書院)、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『なにかが首のまわりに』『アメリカーナ』(共に河出文庫)、『半分のぼった黄色い太陽』『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』『イジェアウェレヘ フェニミスト宣言、15の提案』(いずれも河出書房新社)、サンドラ・シスネロス『マンゴー通り、ときどきさよなら』『サンアントニオの青い月』(共に白水Uブックス)、マリーズ・コンデ『心は泣いたり笑ったり』(青土社)、ゾーイ・ウィカム『デイヴィッドの物語』(大月書店)ほか多数。
 

書評ほか

京都新聞(11/20)評者=浦田千紘

《訳すたびに言葉を、他者を、そして自分自身を発見していく》
《他者を通して現在地の輪郭が徐々に彫刻される過程から彼女の美学が浮かび上がるようだ》

西日本新聞(12/25)評者=大竹昭子

《風土の記憶、自分への目覚め》
《北海道に生まれたという事実が、その後の人生の選択や物事の認識にどう関わってきたかが綴られる》 

図書新聞(2/5)評者=木村友祐

《周縁に根ざした先駆性 モノと一体化する観察眼は、その質量を文章を通じてまざまざとこちらの体に伝えてくる》

東京新聞(2/26)中日新聞(2/27)評者=宮崎正嗣

《「開拓」という歴史への厳しいまなざしが、翻訳者としての立ち位置に大きな影響を与えたことに納得する》

朝日新聞(3/13)「折々のことば」鷲田清一

《過去の想起とは、じつは逆にその織りを解き、糸一本一本の感触を縒りの力ごと探ることにあるのだろう》