『富岡冬野 われを見知らぬ街にきて』
清水あかね
四六判、並製、264ページ
予価:本体2,200円+税
ISBN978-4-86385-711-7 C0092
装丁 成原亜美(成原デザイン事務所)
〈両脚の無い子が街に這つてゐる空にひそかな三日月のかげ〉
上海にて35歳で客死した伝説の歌人・富岡冬野の知られざる生涯
文人画家富岡鉄斎の孫として1904年に生まれた富岡冬野は、15歳で「心の花」に入り頭角を現した後、プロレタリア運動に関わり、東宝で映画製作に関わる夫とともに上海に渡り、上海事変に巻き込まれた民衆の悲惨を歌に詠んだ。
佐佐木信綱、齋藤瀏、佐藤春夫、五島美代子らが高く評価し、一つ年上の前川佐美雄からライバル視もされた富岡冬野はどのような歌人であったのか? 大正末から昭和初期の激動の時代を生き、35歳で若くして客死した彼女の生涯が、本書で初めて明らかになる。
◎片山廣子と齋藤史が編纂した遺歌文集『空は青し』から160首余りを抄録
◎鶴見和子との合同壮行会、李香蘭により施された死化粧など、貴重な写真を収録
「女が女を本当に好きになれるといふ事を、私はふゆのさんを得て初めて理解したのだつた。(略)私は女学生のやうに甘やかな気持と、それから烈しい同志愛といふにも似た気持と両方を持つて、ふゆの様に接してゐたのだつた」(五島美代子)
「御一緒に坐つて居る丈で、この方は、私に欠けて居る実に多くのものを教へて下さつた」(齋藤史)
◎富岡冬野の作品の一部
ふるさとの大き樹しげり暗き家にひねもす何もせずゐし娘
楡の樹も空なる雲もかささぎもわれを見知らぬ街にきて住む
しどけなく物思ふ春を谷かげの蛇やとかげとわが犬は遊ぶ
南京路(ナーチンル)の夜のカフヱに子猫ゐてすゐつちよと遊ぶ秋となりぬる
両脚の無い子が街に這つてゐる空にひそかな三日月のかげ
2025年12月全国書店にて発売予定です。
【目次】
第一章 京都富岡家での日々
1 富岡家に生れて
2 佐佐信綱との出会いと父の死
3 「心の花」に登場
4 いちじるしい進歩
第二章 『微風』の世界
1 第一歌集『微風』刊行
2 『微風』の世界
3 歌集の評価
第三章 プロレタリア運動
1 モダンな女学生時代
2 恋愛と結婚
3 新婚生活とマルクシズム
4 三・一五事件
5 松崎流子としての活動
6 東京へ
第四章 砧村時代
1 作歌の再開
2 挫折感、閉塞感
3 夫との齟齬
4 孤独
5 なまけものの妻
6 京都への思い
7 動物や植物からの癒し
8 「試写室」
9 冬野の夢
第五章 同時代の歌人たちとの交流
1 五島美代子
2 前川佐美雄
3 片山廣子
4 栗原潔子
5 齋藤史
第六章 上海時代
1 松崎の映画工作
2 冬野の上海行き
3 上海上陸
4 上海の風景
5 望郷と夫婦愛
6 戦禍の跡
7 突然の死
8 最終歌
第七章 悲しき帰国、その後
1 悲しき帰国
2 遺歌文集『空は青し』
3 考察『空は青し』
4 松崎のその後
5 おわりに
富岡冬野関連年譜
参考文献・図版出典
上海地図
あとがき
富岡冬野『空は青し』抄
【著者プロフィール】
清水あかね(しみず・あかね)
1966年神奈川県生まれ。お茶の水女子大学修士課程人文科学研究科日本文学専攻修了。鎌倉女学院中学校高等学校国語科教諭。大学時代「心の花」に入会、中断を経て2011年「心の花」に再入会する。2014年より「佐佐木信綱研究会」に所属、佐佐木信綱や富岡冬野の研究をする。2020年第一歌集『白線のカモメ』を刊行、ながらみ書房出版賞を受賞する。
