書籍

『心の浮力』イ・スンウ

「心の浮力」마음의 부력
イ・スンウ 著
平原奈央子 訳

 

四六判、並製、208ページ 
定価:本体2,100円+税
ISBN978-4-86385-704-9 C0097
 

装幀 大倉真一郎
装画 松井祐生(関川卓哉)  



李箱文学賞受賞作「心の浮力」を含む最新短編集。
喪失と疎外、自責と愛などをテーマに、家族や介護、格差など同時代の社会問題を通して現代人の生を描く。

 

「言葉の届かない場所にあるはずの、人の心の複雑な薄闇に、李承雨は言葉で見事に光をあてる。精緻きわまりない八編。」――江國香織

 

「僕が感じてきたように、母も常に感じてきた、そうでなくてもいつか感じることになる深い後悔と罪悪感については思いが及ばなかった。喪失感と悲しみは時とともに和らぐが、後悔と罪悪感は時が経つほど濃くなることに、喪失感と悲しみはある出来事に対する自覚的な反応だが、後悔と罪悪感は自分の感情への無自覚な反応で、はるかにコントロールが難しいということに気づけなかった。」

母は僕を、もうこの世にいない兄の名前で呼ぶようになった。
夢を追い不器用に生きた兄と、堅実に歩む僕。兄弟と老いた母の愛の形を描いた李箱文学賞受賞作「心の浮力」を含む最新短編集。

 

<訳者あとがきより>
兄弟と母の愛について描いた表題作の「心の浮力」は2021年に李箱文学賞を受賞した。韓国近代文学を代表するモダニズム作家・李箱を記念した賞で、巻末に収録した「サイレンが鳴る時― 剝製になった天才のために」は、李箱の代表作「翼」へのオマージュになっている。その他の作品にも過去と現在、兄弟、母、居場所、電話、後悔などのモチーフが変奏曲のように現れ、互いにゆるやかにつながっている。
全編に通底するのは、近しい存在を失った時、人はいかに思い、どう生きようとするのかという切実な問いである。関係が近いほど悲しみや戸惑い以上に後悔や自責の念が付きまとい、切実に心を寄せられるのは、また別の喪失を抱えた見知らぬ誰かかもしれないのだ。
 

2025年11月下旬刊行。

 

<著者プロフィール>
李承雨(イ・スンウ)이승우

1959 年生まれ、韓国全羅南道長興出身。1981 年、「エリュシクトーンの肖像」が「韓国文学」新人賞に選ばれデビュー。短編集に『香港パク』(講談社)、長編小説に『生の裏面』『植物たちの私生活』(ともに藤原書店)、『真昼の視線』(岩波書店)などがある。大山文学賞、東仁文学賞、李箱文学賞など受賞多数。
 

<訳者プロフィール>
平原奈央子(ひらばる・なおこ)

1980 年生まれ、福岡市出身。九州大学文学部史学科(朝鮮史学研究室)卒業。ソウルの梨花女子大学で語学研修、西江大学へ留学。