書籍

『水かげろう  原爆/戦争の文学―長崎から反照することば』田中俊廣

『水かげろう 原爆/戦争の文学―長崎から反照することば』

田中俊廣


四六、並製、312ページ
定価:本体2,300円+税
ISBN978-4-86385-695-0 C0095

装幀 毛利一枝
装画 香月泰男《波紋》 1943 香月泰男美術館蔵

廃墟の淵から立ち上がる伝言 
遠くて近い被爆80年

小説、詩、短歌、俳句、評論のことばは、作者自身が自らの内部深くへ反照させた成果である。

今年、2025年は昭和100年、被爆/戦後80年。世界史上初めての原爆被災と十五年戦争にまつわる論考やエッセイを収録。

長崎を拠点に、原爆/戦争文学の作者のことばを読者へ届ける1冊。

「原子野からの問い」として、佐多稲子、林京子、青来有一、山田かん、竹山広、松尾あつゆき、森澄雄、金子兜太、原民喜ら、「戦中/戦後を生きる思想」として、伊東静雄、茨木のり子、井上良雄、近藤芳美、石田波郷、加藤楸邨、藤田嗣治ら、「絶望と希望」として、大江健三郎、魯迅、林京子らに焦点を当てる。
文学作品を鑑賞し論じることは、惰性に陥りがちな思考に刺激を与え、新たな活性化した認識へ導いてくれる。小説、詩、短歌、俳句、評論のことばは、それぞれ作者自身が自らの内部深くへ反照させた成果である。その結実は解読者や評者へと反照し、さらに、本著を手にしてくれる読者へと反照する。

2025年9月中旬発売。

 

【もくじ】
序詩 水かげろう あるいは幻影の蝶

Ⅰ 原子野/被爆廃墟から問い続ける
長崎の原爆文学 思想的深化への時間
佐多稲子 『樹影』 悲傷とその愛 ― 原爆を生きる二人
林京子 『再びルイへ。』絶望と希望 / 被爆体験を思想へ(追悼)
青来有一 『聖水』 キリシタンと原爆を問い直す / 『爆心』 象徴とリアル
山田かん 〈まっとうな虚無〉の淵から詩を紡ぐ / 原爆の〈闇〉を透視する(追悼) / 「路上の鳥」 実在を超える影の刻印
竹山広 〈永遠の記憶〉を短歌に刻む―透視と批評へ
松尾あつゆき 『原爆句抄』 虚無のあかるさを生きる
森澄雄 俳句の詩魂と含羞―原爆詠への批評と視座
金子兜太 長崎の〈爆心地のマラソン〉からの出発
原民喜 〈杞憂句集〉 広島の悲嘆と鎮魂

Ⅱ 太平洋(大東亜)戦争までの道程と思潮
伊東静雄 「詩索」という対話―十五年戦争の中で / 『春のいそぎ』 ことばの成熟と崩壊/庄野潤三との師弟同行 ― 戦争の日常を生きる
茨木のり子 戦争弱者に寄り添う「詩想」
井上良雄 評論の挫折と超克―文学と信仰を貫く思想
近藤芳美 戦中/戦後のノン・ポリという視座
石田波郷と加藤楸邨 『鶴の眼』と『寒雷』―昭和十年前後の光と陰 / 戦中/戦後の立脚点
藤田嗣治 戦争画を描く手の慾望
 

Ⅲ 絶望の淵から光明への視座
大江健三郎 広島の「威厳」について(追悼) / 魯迅・林京子との〈希望〉への道
時間を翻す――あとがきに代えて
 

【著者プロフィール】
田中俊廣(たなか・としひろ)
1949年生まれ。早稲田大学大学院国語国文学専攻科修了。長崎県立高校教諭を経て、活水女子大学教授(日本近現代文学)、現在、同大学名誉教授・特別教授。詩誌「あるるかん」代表。著書『痛き夢の行方 伊東静雄論』(日本図書センター)、『ことばの遠近法《文学/時代/風土.》』(弦書房)他。