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『徒然草』

  • 2015-06-16 (Tue) 12:59
  • 総合

 夜の寝苦しさが少しずつ気になり始めている。うちわで何とか折り合いをつけているが、そろそろ「冷房をつける」(turn on an air-conditioner)頃合いが近づいているようだ。授業で時に「ロハス」(LOHAS 健康と地球環境に配慮したライフスタイルLifestyle of Health and Sustainability)の大切さを説いている身としては、クーラーの快適さはまだ自制したいところだが・・・。
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 『伊勢物語』に続き、『徒然草』を手にしている。これも「ビギナーズ・クラシックス」(角川書店)と題された文庫本で、初心者向けの思い切った現代語訳が付記されている。現代語訳がなくとも、おおよその意味合いは理解できる文章もあるが、訳文があって大いに助かるものもある。
 鎌倉時代に生きた文人、吉田兼好(1283?-1352?)のこの書は高校時代の古文の時間でさわりを習ったかと思う。今回改めて手にしてみて、「高名の木登り」などいくつかは記憶に残っている文章があった。だが、大半は初めて読むに等しい新鮮さを与えてくれた。例によって印象に残った箇所を備忘録的に以下に記しておきたい。
 されば道人は、遠く日月を惜しむべからず、ただ今の一念、空しく過ぐることを惜しむべし。もし人来たりて、我が命、明日は必ず失はるべしと告げ知らせたらむに、今日の暮るる間、何事をか頼み、何事をか営まむ。我らが生ける今日の日、何ぞその時節に異ならむ。(現代語訳 したがって、その道を極めようとする者は、一日とか一月という長い時間を惜しむような態度ではだめだ。今生きて意識しているこの一瞬が、むだに過ぎてしまうことを惜しまなくてはいけない。たとえば、人がやってきて、あなたは明日必ず死ぬと教えてくれた場合、今日が終わるまでの間、何を頼りにして、どんなことをするだろうか。私たちが生きているこの今日という日も、明日死ぬと言われたあの今日という日と、まったく変わりはないのだ)
 この無常観、死生観はぜひ兼好法師に見習いたいと願うのは私だけではないだろう。『徒然草』はこの無常観に貫かれているようだ。高校生の時分の私にはやはり、この境地はいささか荷が重かったのだろう。今ならよく分かる(と思いたい)。
 男女の情けも、ひとへに逢ひ見るをばいふものかは。逢はでやみにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、長き夜を独り明かし、遠き雲居を思ひやり、浅茅が宿に昔をしのぶこそ、色好むとはいはめ。(現代語訳 男女の恋愛においても、ただただ相思相愛で結ばれる仲だけが最高といえるだろうか。そんな仲だけではなく、相手と結ばれずに終わった辛さに悩んだり、相手の変心から婚約が破棄されたことを嘆き、長い夜を独り寝で明かし、遠い雲の下にいる相手に思いをはせ、荒れ果てた住まいに相手と過ごした当時をしのんだりする態度こそ恋の真味を知るものといえよう)
 この恋愛指南は凡夫の身にはいささかたどり着き難き心境だ。おそらく一生そうだろう。

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