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日本語が亡びる?

  • 2015-03-26 (Thu) 13:12
  • 総合

 徳島で毎春行っている講演会がまた近づいてきた。今年は英語の学習法みたいなテーマで話をする予定だ。文部科学省は2020年を目標に小学3年生から英語を教える方針だとか。そういうご時世もあってか、書店の棚には英語学習の指導書があふれかえっている。
 こうした英語の早期教育に対し懐疑的意見も少なくない。まだ小学生には教え込むことは他にあるだろうと。コミュニケーションの基本はまず母国語の日本語でみっちり仕込むべきであるという主張だ。作家の水村美苗氏は2008年にそうした究極的懐疑論を『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』(筑摩書房)という書で力説している。
 水村氏の説によると、今や英語はかつてどの言語も享受しなかった世界全域で流通する「普遍語」という圧倒的立場にある。このままでは世界中の人々が「叡智」を求めようとする時、求めるのは「普遍語」の英語による情報であり、日本語に関すれば「自分たちの言葉」である日本語で書かれた情報は「娯楽」とか「国内スポーツ」のような限定的な情報源としての価値しか持たない危機的状況に陥っていくのが必定という。それは日本語の衰微、日本文学の衰退をも意味する。
 水村氏は次のように訴えている。「人間をある人間たらしめるのは国家でもなく、血でもなく、その人間が使う言葉である。日本人を日本人たらしめるのは、日本の国家でもなく、日本人の血でもなく、日本語なのである。それも、長い<書き言葉>の伝統をもった日本語なのである。(中略)日本の国語教育はまずは日本近代文学を読み継がせるのに主眼を置くべきである」。水村氏はそうした前提で、英語教育に関しては国民が広く「平等に」日本語と英語のバイリンガルになる必要はなく、要は国民の一部が(国を代表して)バイリンガルになればいいのであり、そういう教育システムに変革していけばいいのだと提言する。
 日本語の大切さは水村氏が指摘する通りであろう。日本語の歴史に関する最近の本を読みたいと思っていたら、恰好の本を見つけた。『日本語の歴史』(山口仲美著・岩波新書)。水村氏は「長い<書き言葉>の伝統をもった日本語」と書いているが、2006年に刊行されたこの本によると日本語の書き言葉はその起源は奈良時代に遡る。山口氏は我々の祖先が「文字」を模索した当時の状況を「日本にはお隣に中国という文化大国があり、政治・経済を含めてすべてを取り入れ、吸収せざるを得なかったといった方がいいかもしれません。中国には紀元前1500年頃に発生した漢字が存在しています。尊敬している国に漢字という手本がある。それっ、というわけで、よくも考えずに日本が漢字を借りてしまうのはごく普通の道筋です」と記している。
 日本語は書き言葉に限定すれば、たかだか千二、三百年の歴史しか有していないことになる。人類全体の壮大な歩みの前には瞬間的な時の長さだろう。山口氏は次のようにも書いている。「日本語の歴史をたどってくると、現代の私たちは、過去の人々の大変な努力を知らずに享受していたことに気づいたと思います。最もすばらしい過去からの贈り物は、日本語の文章です。漢字かな交じり文を採用し、言文一致を完成させてあるのです」。
 日本語の素晴らしさを後世に伝えていく一方、国際社会で堂々と英語で渡り合い、国内では英語の氾濫にも御していく。そういう社会を築きあげていかなければならないのだろう。

Comments:2

Taka Asai 2015-03-31 (Tue) 08:20

省一さん。英語教育に対する最近の文科省の動きを見ると、再び第2公用語化への
道を歩み始めたのかと感じています。正しい日本語の使用を掲げている新聞メディアの紙面も得体の知れないカタカナが氾濫しています。さまざまな賛否があるのは承知していますが、この問題について先生のご高説をぜひ徳島で拝聴したいと思っていますので、よろしくお願いします。

nasu 2015-03-31 (Tue) 11:23

Asai さん まさに Time flies. ですね。あれからもう一年、また皆さんとお目にかかります。高説なんてとんでもない。何かしら参考になる話ができればと願っています。天気があまり良くなさそうなのが気がかりですが・・・。

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