書籍

『葛原妙子歌集』葛原妙子/川野里子編

『葛原妙子歌集』
葛原妙子/川野里子編

四六判、上製、296ページ
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-491-8 C0092 2刷

装幀:六月

栞:大森静佳、川野芽生、平岡直子

他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水(『朱靈』)

 

戦後短歌史に燦然と輝く歌人・葛原妙子。

すべての歌集から1500首を厳選、

葛原の壮大な短歌世界が堪能できる一冊。

 

「あくまでも個の渇きから離れずに「見る」ことを深めていった彼女の歌は、時代を超えてごつごつと強靭である。人としてこの世に生まれてきたことの怯えが、一首ごとにゼロから洗いだされるうつくしい迫力に、何度でも血が滾ってくる」

─────────大森静佳(栞より)

 

「葛原の美意識とは、自身が完全な短歌になることを目指すのではなく、自身は歪み、欠けた異形の存在であることで、実現されない「完全性」の伽藍を手の届かないところに築き上げるところにあったのではないだろうか」

─────────川野芽生(栞より)

 

「葛原の歌では、見慣れた言葉が得体のしれないものにみえる角度が追求されている。遠近感を狂わせるような言葉の配置や、短歌定型との微妙な不和、言葉遣いを常識的な文脈から半音ずらすことなどによって、言葉自体が裏で連続性から断線させられる。そういった工夫によって景色の「見慣れなさ」を歌のうえに再構成することが、葛原にとってもっとも写生的な行為なのではないか」

─────────平岡直子(栞より)

 

2021年11月下旬発売。

 

【目次】

『橙黃』/『繩文』/『飛行』/『薔薇窓』/『原牛』/『葡萄木立』/『朱靈』(完本)/

『鷹の井戶』/『をがたま』/『をがたま』補遺/異本『橙黃』/解説(川野里子)/葛原妙子年譜

 

【栞】

大森静佳「えぐる、えぐられる」

川野芽生「幻視者の瞼」

平岡直子「この世界で、電気仕掛けの身体で」

 

【収録歌より】

早春のレモンに深くナイフ立つるをとめよ素睛らしき人生を得よ(『橙黃』)

わがうたにわれの紋章のいまだあらずたそがれのごとくかなしみきたる(『橙黃』)

黑峠とふ峠ありにし あるひは日本の地圖にはあらぬ(『原牛』)

他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水(『朱靈』)

疾風はうたごゑを攫ふきれぎれに さんた、ま、りぁ、りぁ、りぁ(『朱靈』)

 

【著者プロフィール】

葛原妙子(くずはら・たえこ)

1907(明治40)年東京都文京区に生まれる。1939年「潮音」に入社。四賀光子の選を受ける。第二次大戦後本格的に作歌活動を始め、1949年「女人短歌会」創立メンバーとなる。1981年には歌誌「をがたま」創刊。1985年没(洗礼名マリア・フランシスカ)。歌集に『橙黄』『縄文』『飛行』『薔薇窓』『原牛』『葡萄木立』『朱靈』『鷹の井戸』。遺歌集として『をがたま』がある。『葡萄木立』により日本歌人クラブ賞、『朱靈』により第五回迢空賞を受賞。随筆集に『孤宴』がある。

 

【編著者プロフィール】

川野里子(かわの・さとこ)

1959(昭和34)年大分県生まれ。千葉大学文学部日本文化研究科修士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。歌誌「かりん」編集委員。歌集に『太陽の壺』(第13回河野愛子賞)『王者の道』(第15回若山牧水賞)『硝子の島』(第10回小野市詩歌文学賞)『歓待』(第71回読売文学賞)『天窓紀行』など。評論に『新装版 幻想の重量──葛原妙子の戦後短歌』(第6回葛原妙子賞)『七十年の孤独──戦後短歌からの問い』『鑑賞 葛原妙子』など。 

書評

Oggi2月号 評者=石井千湖さん

《耽美な天使の歌があるかと思えばゴキブリが出てくるユーモラスな歌もあって、繰り返し読んでも飽きない》

読売新聞(12/26)「読書委員が選ぶ2021年の3冊」 評者=尾崎真理子さん

《先人の仕事を伝える労作。〔……〕今後はこうした未知の世界をひもといてみたい》

朝日新聞(1/23)

《戦後の歌壇に大きな影響を与えた葛原のすべての歌集から1500首を厳選。解説や若手3歌人の栞が魅力を伝える》

図書新聞(22年5/21) 評者=睦月都さん