書籍

『新装版 幻想の重量──葛原妙子の戦後短歌』川野里子

『新装版 幻想の重量──葛原妙子の戦後短歌』
川野里子

四六判、上製、392ページ
定価:本体2,500円+税
ISBN978-4-86385-476-5 C0095 

装幀・カバーフォト(コラージュ) 毛利一枝

 

あきらかにものをみむとしまづあきらかに目を閉ざしたり    葛原妙子

戦後短歌の世界に忽然と現れた異形の美

幻視の女王、魔女、黒聖母、ミュータント……こうした呼び名を剝がしつつ迫るその全貌。

いよいよ存在感を増す葛原妙子を通して戦後の短歌史を問い直す名著の新装版。

 

【新装版の刊行に寄せて】

葛原妙子の作品は不思議にいつも新しい。同時に読み切れない。

追いかけるほどに深みへ引き込まれ、書くほどに書ききれなかったことが影となって付いてくる。(……)

不思議なほどあらゆる評言を逃れて葛原の作品はゼロの地点にある。

(川野里子)

 

【目次】

ゼロ地点の言葉──新装版の刊行に寄せて

一 葛原妙子への入口

二 『橙黃』誕生

1 『橙黃』誕生まで

2 「女人短歌」創刊と『橙黄』誕生

3 『橙黄』への批評

三 身体表現と戦後

1 折口信夫の女歌論と葛原

2 女性歌人の身体表現

3 中城ふみ子と葛原

4 森岡貞香と葛原

5 近代の終焉と『飛行』

四 近代という宿題

1 再読「再び女人の歌を閉塞するもの」

2 読み残された女歌

五 前衛短歌運動との距離

1 塚本邦雄と葛原

2 『原牛』の成立と斎藤茂吉

3 「魔女不在」と『原牛』の位置

六 「原不安」の発見

1 『葡萄木立』の原不安

2 戦後短歌史のなかの「原不安」

七 キリスト教という視野

1 葛原とキリスト教

2 もう一つの戦後とキリスト教

3 神と人工(アート)

八 「魔女」と「幻視の女王」

1 魔女の創られ方

2 「幻視の女王」の六〇年安保

3 葛原のヨーロッパ

4 他界より眺めてあらば

5 ある飢餓の感触

九 「伝統」創造の時代

1 「伝統」と『鷹の井戸』

2 第二次女歌と「伝統」──葛原と馬場あき子

3 「魔女」と「巫女」──葛原と山中智恵子

4 二つの影としての葛原と齋藤史

十 晩年の峰

1 もう一つの『橙黃』

2 随所に朱となれ──『をがたま』の世界

3 近代を遂げる

補論 語り残された自我

1 「女流の歌を閉塞したもの」と葛原

2 女性像と自我

3 前衛短歌論争と葛原

インタビュー 森岡貞香に聞く

葛原妙子年譜

 

2021年8月全国書店にて発売予定。

 

【著者プロフィール】

川野里子(かわの・さとこ)

1959年生まれ。千葉大学大学院修士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。評論に『幻想の重量──葛原妙子の戦後短歌』『七十年の孤独──戦後短歌からの問い』(書肆侃侃房)、『コレクション日本歌人選 葛原妙子』(笠間書院)など。歌集に『太陽の壺』(第13回河野愛子賞)『王者の道』(第15回若山牧水賞)『硝子の島』(第10回小野市詩歌文学賞)『歓待』(第71回読売文学賞)など。

婦人画報(12月号) 評者=町田康さん

《読んで驚愕した。実際の歌人たちが辿った道のりは自分の想像を遥かに超えて過酷なものであることを今更ながら知ったからである》

artscape(12/6) 評者=星野太さん

《本書は、葛原妙子を通じて「戦後短歌」そのものの風景を書き換えようとする、きわめて野心的な試みなのである》