書籍

『詩集 一滴の秋の』 鹿野至

『詩集 一滴の秋の』
鹿野 至

A5判変形上製、96ページ 
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-330-0 C0092

装画 千川裕子
装幀 宮島亜紀
 
 
著者プロフィール
鹿野 至(かの・いたる)
1949年2月 福岡県生まれ。
詩集『喪われた秋のために』
現在、「季刊午前」同人



風の願い事
 
 
風は
畦道に捨て置かれた 一条の曼珠沙華から
空へ連なる棚田を
いっきに 吹き上がり

盲いた渡り鳥となって
高く 声にならない叫びを残し
落葉の渦の中を
都市の遠近を失った舗道へ

言葉や関係の 空洞
高層ビルや雑踏の 不規則な音階
それらの不可視の約束事によって支配されている
都市の奈落へ
落下し 砕け散る

ひととき 静寂が広がり
山脈を抜ける 地下水の隧道から
一滴の秋をかたちづくるために
あるいは 陽射しの名残りを束ねた白髪の女に
一片の微笑みを蘇生させるために

再び 風が
茜色の雲の向こうへ
ゆっくりと 透明な道を辿っていく
無残な 美しい願い事のように