書籍

『文字の消息』 澤西祐典

『文字の消息』
澤西祐典

四六判、上製、168ページ
定価:本体1,400円+税
ISBN978-4-86385-319-5 C0093

装幀・装画 宮島亜紀

小さな亀裂が徐々に広がり、日常世界を崩壊させるという
幻想文学の要諦がここには見事に具現されている。
――木村榮一(スペイン語圏文学翻訳家)

どこからともなく降り積もる“文字”が日常を脅かしてゆく。家が、街が、やがて文字に埋もれ……表題作「文字の消息」。全身が少しずつ砂糖へと変わる病に侵された母と、その母を看取る娘の物語「砂糖で満ちてゆく」。入り江に静かにたたずみ、災いをもたらすとされる巨大な船に翻弄される町を描いた「災厄の船」。静かに寄せてくる波のように、私たちの日常を侵食していく3編の物語。

2018年6月中旬全国書店にて発売。

著者略歴

澤西祐典(さわにし・ゆうてん)
1986年生まれ。
京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。
2011年、「フラミンゴの村」で第35回すばる文学賞受賞。
本書収録「砂糖で満ちてゆく」は、英語訳・ドイツ語訳が発表されるなど、海外からも注目を集める。
著書に『フラミンゴの村』(集英社)、共著『小辞譚』(猿江商會)等がある。

収録作品

「文字の消息」  
「砂糖で満ちてゆく」 
「災厄の船」 

【書評】

読売新聞(2018年7月29日) 評者=朝井リョウさん(作家)

《崩壊する生活、周囲の人々の変調、的外れな分析や逃げ口上ばかりの有識者――“文字”による日常の変化の描写は、東日本大震災後の日本と重なる》

図書新聞(2018年10月27日号) 評者=山本浩貴さん(いぬのせなか座)

《本来なら無関係なはずのものたちを一挙に絡めてしまう私の、極めて個人的な生の質感は、喩を経由することで他の私らにも使用可能となる。当然そこでは、フィクションが持つ強さと危うさが露呈することになる》

週刊新潮(2018年9月13日号) 評者=都甲幸治さん(早稲田大学教授)

《そもそも言葉とは、今ここに無いものを表わす記号でしかない。だからそれは物としては存在しない。〔……〕日本語を内と外から自由に眺められる新たな書き手が誕生した》

毎日新聞(2018年8月29日) 評者=大澤聡さん(批評家、近畿大学文芸学部准教授)

《人間が消滅したのちも文字たちは文字たりうるのだろうかと『文字の消息』は問う》

日本経済新聞(2018年8月2日) 評者=陣野俊史さん(文芸評論家)

《え? 文字が降ってくるって? と読者は思われるだろう。そんな疑問などどこ吹く風。〔……〕著者の澤西祐典の持つ、幻想小説の王道とも言える世界を味読されたし》​

すばる(2018年9月号) 評者=倉本さおりさん(書評家)

西日本新聞 評者=小山内恵美子さん(小説家)

クロワッサン(2018年10月10日号)

《奇想天外な設定でありながら妙に生々しいリアリティを突き付けてくる、これはすごい小説である。降り積もるのはもちろん暗喩としての文字ではない。私たちが使っている、この文字である。〔……〕意外な結末とともに迎えるラスト。文字の消息はどこへ向かうのか。これは、この時代を生きる私たちのリアルなテーマである》

書道界(2018年10月号)

《文字の堆積は日常を変貌させ、人間のエゴを浮き彫りにし、社会を崩壊させていく。〔……〕人類最大の発明とも言われ、貴重なコミュニケーションツールである文字が人々を死に至らしめる展開は、昨今のネット上のSNSなどでの文字による暴力への警鐘なのか、もはや書くのではなく打つものに変貌しつつあることへの問いなのか》