書籍

『原爆句抄』 松尾あつゆき

原爆で奪われた家族の幸せな日々 待望の復刊

『原爆句抄』魂からしみ出る涙
松尾あつゆき

四六判、並製、144ページ
定価:本体1,300円+税
ISBN978-4-86385-177-1 C0095
装画 小﨑 侃

 

すべてを奪われた悲しみと、怒りと、鎮魂と。
松尾あつゆきは、きっと優しい父、温かい夫だったのだろう。『原爆句抄』には、原爆で奪われた家族の幸せな日々の記憶が、静かに息づいている。だからこそ――あつゆきの、そして、あの日うしなわれたすべての命の無念が、胸の奥深くに染みるのだ。
――重松 清

手記と俳句から伝わる原爆の生々しい記録……
1945年8月9日、長崎で被爆した松尾あつゆきは、最愛の妻と3人の子どもを手の中で次々に失っていった。炎天下で荼毘に付し、たったひとり残された長女みち子の看病をしながら、その日から出来る限り正確に起こった出来事を日記に書き留め、それをもとに200句もの原爆句を書いた。自由律俳句は今読んでも、たった今起こったかのように生々しく、痛々しく、激しい言葉がつぶてのように読む人の心を打つ。NHK BSプレミアムドラマ「だから荒野」で松尾あつゆきの俳句が取り上げられ、人々の共感を呼んでいる。

2015年3月中旬全国書店にて発売。


[帯裏五句]
炎天、子のいまわの水をさがしにゆく
あわれ七ヶ月のいのちの、はなびらのような骨かな
まくらもと子を骨にしてあわれちちがはる
なにもかもなくした手に四まいの爆死証明
今はもうたびびととして長崎の石だたみ秋の日

 

【著者プロフィール】
松尾あつゆき(まつお・あつゆき)
1904 ~ 1983年。
本名、敦之。長崎県北松浦郡生まれ。長崎高等商業学校卒業後、英語教師となる。在学中より自由律俳句に傾倒し「層雲」に入門。1942年「層雲賞」受賞。1945年8月9日、原爆で妻と三児を失う。
1972年俳句と手記を収めた『原爆句抄』上梓。

書評
「毎日新聞」2019年8月11日 評者=田中俊さん
《勘定を排した即物的で客観的な文体は、それだけ逆に、家族を亡くした悲嘆・悲痛をふつふつと背後から湧き上がらせる》