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neoteny(幼形成熟)

  • 2025-11-23 (Sun) 13:45
  • 総合

20251123-1763873090.jpg 他愛ない話を一つ。忘れる前に書いておきたい。高校の英語のテキストにneoteny という見慣れない語が出ていた。発音も少し難解で意味合いもそう簡単に覚えられそうもない語だ。辞書をひくと、「幼形成熟」という訳語が載っており、「発生が一定の段階で止まり、幼生形のまま生殖腺が成熟して生殖する現象」とある。テキストには、人類に特有の現象であり、大人になっても子供のような特徴を留めているとも説かれていた。人類は他の哺乳類と比べ、大人になった後でも子供の特徴を多く残しているようだ。我々が生涯、好奇心と遊び心を持ち続けているのはその証左だとか。
 私はこのneoteny という語に初めて接した時、妙に納得できた。古希を過ぎても中高生相手に親自虐いや親父ギャグを放っている私は人一倍、幼形成熟の度合いが強いのかもしれない。他の哺乳類との「違い」を感じたのは10年以上前のこと。新聞社を早期退社後、アフリカやアメリカなどを旅していた時、持ち家のない私は家財道具をトランクルームに預け、帰国後は今のアパートからそう遠くないところに住んでいた一人暮らしの高校・大学時代の先輩の社宅に居候させてもらっていた。
 その家に家猫が住まっていた。ハッピーという名だったか。生来の猫好きの私はハッピーともすぐに仲良くなった。当時私はほぼ一日中、パソコンに向かい、旅の最中に書いていたブログに手を入れ、紀行本を出版する作業に精を出していた。そのかたわら、ハッピーの餌やりも任されていた。こちらが餌やりを忘れていると、ハッピーが私のそばに来て、ニャアーと鳴く。「おい、居候よ、俺様の食事の時間だぞ。早く餌を用意しろ」とでも言うように。
 私はもちろん、腰を上げ、餌の入った袋の所に行き、餌を小皿に取り分けていた。だが、時々、いたずら心が沸き、ハッピーがいくら催促しても無視する挙に出た。少しくらい腹を空かさせた方が猫の健康にいいかもしれないと。ハッピーが段々といらついていることが分かった。私が全然動き出さないことにしびれを切らした彼は最後には諦めてふいっと私から離れて行った。その時にハッピーの口から出た音は「フギャッ」という感じの初めて耳にするような鳴き声だった。人間だったら、「くそっ、この野郎め」という強烈な苛立ちの発声だったろう。
 私は心中思っていた。「おいおい、ハッピーよ。冗談だよ。戻って来いよ。さあ、餌をあげよう。ちょっとからかってみただけだよ。俺も一日中部屋に閉じこもっているから退屈してたんだ。お前さんとじゃれあいたかっただけなんだから。そう怒るなよ。俺はお前さんが大好きだよ。お前さんだって俺のこと、嫌いじゃないだろ!」
 その時、何となく感じた。もし猫が人間のような遊び心を少しでも持っていたら、猫と人はもっと仲良くやっていけるのでないだろうか。猫じゃらしを振ったり、畳や壁に日の光を反射して猫がそれを追いかけ回る・・・それ以上の遊びが楽しめるのではないか。遊び疲れた猫が懐に飛び乗ってきて、「おい、今の面白かったぞ。また、一緒に遊ぼうな!」と身体をすり寄せてくるかもしれない。
 いたずらに年齢だけを重ねたような我が人生。この先、どんな歩みが待っているのか。どうなろうとも、「遊び心」はいつまでも持っていたいと願う。

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