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告別式で上京

  • 2018-04-26 (Thu) 21:56
  • 総合

 新聞社勤務時代の元上司K氏が逝去したとの連絡が入った。数年前にがんが見つかり、手術を受けられていた。その後の容態があまり思わしくないことは承知していたが、こんなに早く逝かれるとは思っていなかった。ロンドン支局勤務の頃は休日に一緒にゴルフに興じていた。何度も自宅に招かれ、奥様の手料理に舌鼓を打った。私が九州(福岡)に腰を落ち着けることになったのもK氏が西部本社の社長となり、九州出身の私を編集委員として異動させてくれたからだ。私にとってはゆかりの深いお人だった。
 実はここ一、二年、K氏はよく私の夢の中に出てきていた。夢だから脈絡はなく、目覚めた後の記憶も残っていないのだが、彼が夢に出てきたことは覚えている。夢の中でも上司と部下の関係だったような気がする。不快な夢ではなかった。K氏が私に会いたがっているのかなと時に思ったりもしたが、退職後の私にとって東京は遠い。おいそれと足を運ぶ地ではなくなっていた。
 それで告別式も欠席させてもらおうと考えていた。出棺の頃合いに横浜(葬儀会場)の空に向かって手を合わせようと。仕事には厳しかったが、私生活では優しかったK氏も笑って許してくれるだろうと。大学での授業を終え、疲れた体をソファーに横たえ、テレビではK氏がこよなく愛した巨人が中日を相手に信じられないような猛攻の中継を横目で見ながら、パソコンをいじっていた。ここ数日、福岡―東京の格安切符を探っていたのだが、どれもこれも高かった。
 最後にもう一度検索をかけてみた。そうしたら、格安航空会社のサイトに「シニアメイト」というのが出てきた。60歳以上なら利用できる制度で前日に空席があれば割安でチケットがネット予約できるとか。これをあさってみたらあった。14,590円。朝7時10分発、羽田8時45分着。告別式は横浜で10時半から。これなら十分間に合う。私はK氏が「那須ちゃん、俺の葬儀に来いよ。最後の別れをしよう」と言われているような気がした。すぐにコンビニに出かけ、香典袋を購入。黒の礼服もタンスから取り出した。
 上京するのはいつ以来だろうか。確か、最後にそうしたのは、これも元上司H氏の告別式参列が目的の4年前だった。H氏は私と年齢差はそうなく、ナイロビ支局の前任者だった。あの告別式の時は苦労した。宮崎の山奥に帰省していた時に急死の連絡が届き、迷った末に宮崎から上京した。礼服は葬儀会場に近い貸衣装店で借り、靴は帰省した時に履いていた黒のスニーカーだった。告別式にぎりぎり間に合い、H氏の奥様に参列を感謝された。
 それに比べれば、今回は「楽」だった。朝4時に目覚ましをセットして、始発の電車に乗り、地下鉄に乗り継いで福岡空港へ。空路も順調で、機内アナウンスだと予定より10分早く羽田空港に到着した。葬儀会場では昔の同僚・先輩の諸氏と再会し、旧交を温めた。何より嬉しかったのは久しぶりに会ったK氏の夫人が私の来訪をとても喜んでくれ、丁重なねぎらいの言葉を頂いたこと。K氏夫妻の3人のご子息もたくましい社会人に成長されており、K氏もその点は安心して旅立たれたことだろう。
 葬儀がつつがなく終了した後、かつての同僚らと昼飯を一緒しながら歓談。その後、新横浜駅から新幹線に乗車し、晴れやかな心持ちで福岡に戻った。合掌。

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