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“Go Set a Watchman”

  • 2015-07-21 (Tue) 15:13
  • 総合

 今年の全英オープン(The Open)は大混戦の中、アメリカのベテランプロ、ザック・ジョンソンがプレーオフの末、初優勝を果たした。日本人でただ一人決勝ラウンドに進んだ松山英樹選手を声援していたが、終わってみれば、首位からは7打の大差をつけられた18位タイ。月曜にずれ込んだ最終日は民放の放送はなく、ケーブルテレビのチャンネルだったため、彼のプレーはあまり映されないこともあって途中で観戦を放棄。それにしても、日本から大挙して参戦した日本人プロは松山選手を除き、誰一人決勝ラウンドに進めなかった。アメリカやイングランド、アイルランドの20代前半のアマの若者たちは上位で奮闘していたが・・・。ゴルフに関する限り、彼我の力の差は歴然としているようだ。
                 ◇
 このところ、母国のアメリカに帰国、悠悠自適の日々を送っている大学時代の恩師からよくメールが届く。『アラバマ物語』という翻訳で知られる “To Kill a Mockingbird” の著者、ハーパー・リーの最新作にまつわるメールだ。恩師は私が少なからずこの作家に関心を抱いていることを知っている。
 今も健在な作家の最新作は “Go Set a Watchman” (注)という名の小説。いやこれは最新作と呼べるかどうか。彼女が “Mockingbird” を1960年に発表する前に書かれていたもので、今回、草稿が残っていることが判明し、刊行されたとか。話題を呼んでいるのは前作との「落差」だ。“Mockingbird” では、人種偏見の根強いディープサウスと呼ばれるアラバマ州で、白人女性をレイプしたとして逮捕された黒人を弁護した勇気あるアティカス・フィンチが登場する。その彼が “Watchman” では白人至上主義者のグループ、KKK(クークラックスクラン)に近い人種差別主義の考えを抱いていたことが描かれているとか。“spoiler alert!”(物語の内容が露呈するので用心あれ!)の警告を付していた書評はアティカスを “polite racist”(礼儀正しい人種差別主義者)と評していた。
 アメリカは今もなお、血なまぐさい人種対立のニュースが絶えない。南部のサウスカロライナ州のチャールストンでは白人至上主義の若者が黒人教会を襲撃して、9人の黒人を殺害する事件が発生して、アメリカ社会を震撼させたばかりだ。半世紀以上前に発表された“Mockingbird” はこの人種問題をとらえた、アメリカの現代文学を代表する作品の一つとして評価され、多くの人々がアティカスに理想的白人像を見ている。
 部屋の本棚を探せば、どこかに “Mockingbird” があるはずだ。2011年のアメリカの旅でもこの作家の存在を意識する取材の場があった。それは “In Cold Blood”(『冷血』)のトルーマン・カポーティゆかりの地を訪ねた際に、友人のカポーティの題材取材を姉のように手伝ったリーのことを懐かしそうに語ってくれた老婦人に会うことができたからだ。
 ハーパー・リーは1926年4月生まれだから現在89歳。今は施設のようなところで元気に暮らしているとのニュースを読んだ記憶がある。恩師のメールで読んだ新聞報道によると、“Mockingbird” 以来久々の作品となる “Watchman” は早くもベストセラーになる兆しがあるとか。(注)は続で。

注)“Go Set a Watchman” はやがて日本でも翻訳本が出るのだろうが、どういうタイトルになるのか。まさか『続アラバマ物語』とはしないだろう。書名は聖書のイザヤ書第21章6に由来するとか。私の手元にある聖書ではMeanwhile (in my vision) the Lord had told me, “Put a watchman on the city wall to shout out what he sees. …” となっている。『見張りを立たせよ』と意味の主の言葉だ。作家が訴えたかったのは何に備えての「見張り」か? イザヤ書ではこの後、イスラエルの民を苦しめたバビロンが崩壊したことが記されている。

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