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「コーシ刑」とは何ぞや?

  • 2023-04-08 (Sat) 17:17
  • 総合

 勤務先の中学校でお世話になっている先生が授業で活用されていたDVDのビデオを昨年末に借りていた。冬休みにゆっくり鑑賞するつもりだったが、帯状疱疹の苦しみでそれどころではなかった。冬休みだけでなく、春休みもとっくに過ぎた最近になってようやくDVDを鑑賞する余裕が出てきた。まだ夜明けに右胸と背中の右上部の鈍い痛みで目覚めているもののだ。
 英BBC制作の「シャーロック」(Sherlock)。シーズン1の三つの作品が収められていた。作品データ2010年と記されているから、10数年前に制作されたようだ。アーサー・コナン・ドイル(1859-1930)の名作を基に、ネットや携帯電話が不可欠の現代に舞台を移し、シャーロック・ホームズ探偵がジョン・ワトソン博士とともに難事件解決に挑む。私は2012年の英文学紀行の旅でこの作品ゆかりの家を訪ねて取材しており、興味深く見入った。
 面白いと思ったのはDisk3の “The Great Game”(大いなるゲーム)の冒頭の部分。ベラルーシでガールフレンドを殺害して警察に捕まったイギリス人の若者にホームズが面会する場面。若者が話しているのはコックニーと呼ばれるロンドンの下町言葉。我々がBBCで耳にする英語とは若干異なる。ホームズを演じる俳優、ベネディクト・カンバーバッチは若者が口にするコックニーの英語にしかめっ面をしながら、その文法的間違いを指摘する。
 例えば若者は実家が肉屋だったので、肉の切り方は父親に教わったと言うシーン。“You know, my old man was a butcher so I know how to handle knives. He learned us how to cut up a beast.” これを聞いたホームズは動詞が間違っているだろ、“He taught us how to cut up a beast.“ と言うべきだと注意する。「ホームズさん、助けてくれ、あなたなしでは自分は絞首刑になる」(“Without you, I’ll get hung for this.”)とすがる若者。ホームズは “No, no, no. (You’ll get) Hanged, yes.” と動詞(過去分詞)の間違いを指摘し、笑いながら立ち去る。
 日本語字幕に工夫がなされていた。若者が “taught us …” を “learned us …”と間違えたところは「おすわったんだ」といかにも拙い表現に。“I’ll get hanged …” と言うべきところが “I’ll get hung …” と誤った表現になっていたところは「俺はコーシ刑になる」と若者の無学が伝わる日本語訳にされていた。
 私も過去に何冊か英語で書かれた小説を日本語に翻訳したことがあるが、上記のような「面白さ」「おかしみ」をいかに日本語に落とすか頭をひねったことを思い出す。翻訳の仕事から遠ざかって久しいが、オンラインで続けている英語短編小説を読む教室ではそうした言葉遊びの楽しさを受講生とともに味わっている。
 ところで、私はDVDを観ることができるビデオデッキは持っていない。ラップトップのパソコンは軽量ゆえにDVDは外付けになっている。古いラップトップを捨てずに手元に置いており、それでは何とかDVDを観ることができる。ただし、古いゆえにどこか不具合があるのか、DVDが途中で止まったりして興趣をそがれる。それで思い切って安い卓上ポータブルDVDプレーヤーを購入した。遅ればせながら、これからDVDを借りまくり、楽しもうかとも思ったが、パソコンのYouTubeで多種多様な番組が楽しめる昨今、DVDのショップに足を運ぶことが果してあるのかないのか。

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