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『英語独習法』の続き

  • 2021-02-25 (Thu) 10:28
  • 総合

 前項で紹介した『英語独習法』の続き。著者の説く「スキーマ」についてもう少し追記したい。誰もが有している母語の水面下の氷山のような「非常に複雑で豊かな知識のシステム」をスキーマと呼ぶのだという。このスキーマがあるために母語を不自由なく話し、聴き、読み、書くことができる。ところが外国語を学習する際にはこの母語のスキーマが学習の妨げにもなっているのだとか。これは英語に習熟しようと努力した人にはよく理解できる点だろう。確か、言語学的には「母語の干渉」と呼ばれるものだったような記憶がある。
 『英語独習法』ではだから、外国語を学習する際には母語のスキーマにとらわれず、その外国語に関する独自のスキーマを育むことを訴えている。そうでないと、いつまでもその外国語に習熟することは望めないと。その通りだろう。このくだりを読んでいて、英語の非常勤講師として大学で教えていた頃に学生に告げていたコロケーション(collocation)のことを思い出した。
 コロケーションとは通常一緒に使われる単語と単語のつながりのことで、「連語」と呼ばれる。例えば、私たち日本人は「服」を身につける時に『着る』という動詞を、「帽子」を身に着ける時には『かぶる』という動詞を使う。英語ではどちらもput onとかwearという動詞を使うことが可能だ。wear a capやput on a capだ。この考え方で、日本語を学んでいる英語のネイティブ話者が「帽子を着る」と言ったとしたら、我々は意味は理解できても、笑ってしまうだろう。それは日本語では不自然な言い方だからだ。
 逆も真なりで、我々日本人も英語を使っている時に似たようなことをしている可能性は大だ。少なからぬ学生がしていた次のような間違い。「教える」は “teach” だが、道を尋ねる際には “tell” で十分だ。“Please teach me how to get to Hakata station.” ではなく “Please tell me how to get to Hakata station.” と表現するのが自然であることを肌で理解する必要がある。今や日本語の挨拶の常套句となった感のある「宜しくお願いします」という表現は英語には存在せず、“Hi, nice to meet you.” で十分ということを肌で認識したい。
 ところで『英語独習法』の著者は次のようにも書いていた。――外国語を学ぶとき、最初の授業でのっけから音素の聴き分けや発音練習から始めることがある。私が中国語を習い始めたとき、中国語の単語をまったく知らないのに「そり舌音」など、日本語にない音の発音を繰り返す授業が続き、うんざりした。これはじつは、成人にとってはもっとも困難なことを最初にやって出鼻をくじこうとしているようなものだ。――
 これにも私は全く同感だ。私は幸い、「そり舌音」のレベルはもう卒業したと思って(願って)いるが、悲しいかな、中国語の声調にはいまだに悩まされている。「雑誌」は中国語の簡体字では「杂志」。ピンイン表記だとzázhìで、ザで上がり、ジーで下がる声調だが、私はいまだにこれをまったく逆の声調で発声している。上げる、下げるの声調が全く逆に聞こえることさえある。昨日もそうだった。中国語の簡単な文章を書くときも漢字ゆえに日本語に引っ張られた文章を書きがちで、公民館の中国語講座の老师(先生)からはしょっちゅう、そうした初歩的な間違いを指摘されている。中国語のスキーマ、それと韓国語のスキーマを早く育てあげないことには・・・。

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