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積読の効用

  • 2014-04-21 (Mon) 12:05
  • 総合

 今夏に故郷・宮崎の大学で一週間の予定で集中講義することになった。これまでは授業したことのないテーマのジャーナリズム論に関する講義だ。
 新聞社に長く勤務して、今も心のどこかに「フリーランスのジャーナリスト」という矜持は持っていたいと思っている。話したいことはいくつかある。それで、少しずつ関連の本を図書館から借り受けたり、書店で購入したりして読み進めている。
 関西の大学で教授として教壇に立っている新聞社時代の先輩に薦められた本がある。『国際紛争 理論と歴史』(ジョセフ・ナイ、デイヴィッド・ウェルチ共著)。翻訳が難解なところがあるが、今の私には参考になる本だった。その中で次のような記述があった。
 「政治は競合する信憑性のコンテストになった。物語性がより重要になった。伝統的な権力政治の世界は、典型的には、軍事的または経済的にだれが勝つかをめぐる世界であった。しかし、情報時代にはだれの物語が勝つかがますます重要になっている。政府は他の政府と、また他の組織と、自己の信憑性を増し相手のそれを弱めようと競争している」
 まさにその通りだろう。「以心伝心」は日本だけで通じる世界だ。言いたいこと、伝えたいことがあれば、はっきりと言葉にして相手に、そして周囲の人々に聞いてもらわないと始まらない。英語では agree to disagreeという表現もある。「お互いに意見が異なることを認め合う」という意味か。決して相手を言い負かそうとしているのではない。
 いびつにこじれた日中・日韓関係。そのこじれをほぐす糸口を見つける努力は真摯に続けなくてはならないが、日本も中国や韓国に負けない「物語性」を国際社会にアピールしていく必要性がある。日本政府が放っている「物語性」は脆弱過ぎるのではないか。いや、日本人一人一人が国際社会で語りかける「物語性」こそ大切と言えるかもしれない。
 昨日(日曜)の読売新聞に以下のような記事があった。外務省が先月東南アジア諸国連合(ASEAN)の7か国で行った世論調査で、日本が「最も信頼できる国」と答えた人が一番多くて33%、米国が2位で16%だったとか。中国は5%。ASEANにとって「重要なパートナー」を尋ねた質問でも日本を挙げた人が最も多く、65%で1位、中国は48%で2位との由。近隣諸国で日本の「物語性」が浸透していく素地は十分あるようだ。
 ところで、そういう読書の日々となって、ふと気づいたことがある。積読の「効能」だ。積ん読と書くべきかもしれない。過去にはその「効能」を実感したことは皆無に近かったが、会社を辞め、自宅で過ごす時間が格段に増えてからはしばしば実感するようになっている。自分でも意外の感があるのだが、私の侘しい本棚を時に漁って見ると、結構「ジャーナリズム論」に関連する本があるのだ。少しは目を通したことがあるのかもしれないが、内容はほとんど覚えていない本が少なくない。いや、全然読んでいない本もある。
 改めてそうした本を読んでみる。そうそう、こういうことを知りたかった。お、これは授業で引用できるではないか、などと思っている。過去の本購入が決して無駄金ではなかったことにもなる。資源の無駄遣いにもならず、これはこれで大いに結構、かな?
 参考までに「積読」の英訳はネット検索では “buying books but leaving them unread” とある。”buying books for future reading” としたいところだ。 

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