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余韻不気味な "The Lottery"

  • 2020-12-02 (Wed) 09:52
  • 総合

 来年からの毎月2回の英語教室の新しい教材探しのために、積ん読状態だった “50 Great Short Stories” という英書をゆっくり読んでいる。読後の余韻が不気味な作品に遭遇した。
 英語教室の教材としてはうってつけだと思うが、読まなければ良かったと後悔する人もいるかもしれない。ホラーでも怪奇小説でもないが、読み終えた後、なんだこの小説はと・・。
 “The Lottery” という短篇。著者はアメリカ人作家の Shirley Jackson(1920-65)。1949年に発表された作品のようだ。淡々とした書き出し。The morning of June 27th was clear and sunny, with the fresh warmth of a full-summer day; the flowers were blossoming profusely and the grass was richly green. The people of the village began to gather in the square, between the post office and the bank, around ten o’clock; …
 何の変哲もないアメリカの田舎の村の描写だ。読者はこの村がどこにあるのかということは最後まで分からない。村の人口は300人ほどで家長以下全員が6月27日に村の広場に集合する。表題から村人総出のくじ引き大会があり、村人たちはくじに当たることを楽しみにしているのかと思って読み進めると、どうもそういう雰囲気ではない。
 くじ引き大会の主宰者は村の長老といった感じのサマーズ氏。広場に古ぼけた黒い箱が運び込まれる。中にくじが入っている。サマーズ氏はアルファベット順に村人の名前を呼び上げ、家長すなわち父親たちが箱の中に手を入れ、白い紙を取り出す。紙は折り畳まれており、サマーズ氏は最後に合図するまで開かないように念を押す。もっとも誰もそれは心得ている。見守る主婦の一人が去年のくじ引きはつい先週だったような気がするわと言うと、隣の主婦が「月日の経つのは本当に早いわ」(”Time sure goes fast.”)と返す。「他の村々ではこのくじ引きを辞めようという話が出ているようだ」と村人が年寄りの老人に語りかけると、老人は「そういう連中は全くの阿呆どもだ。昔は6月にくじを引き、それから豊作がやって来る、と言ったものだ」と意に介さない。
 さて、村人の沈黙が流れる中、男衆はそれぞれのくじを開ける。当たったのは誰? やがてビル・ハッチンソンという男が当たりくじを引いたことが判明する。それからハッチンソン一家の子供3人を含む全員が再びくじを引くことになる。ビルの妻で子供たちの母親でもあるテスィーが再三、くじ引きはフェアでなかった、夫のビルは十分な時間を与えられていなかったと訴えるが、サマーズ氏ははねつける。夫のビルも「つべこべ言うな」とたしなめる。この辺りから異様な雰囲気が伝わってくる。
 子供たちやビルが引いたくじは外れであり、黒点が書かれた当たりくじを引いたのはテスィーだった。サマーズ氏は「さあ、手っ取り早く片付けよう」(“Let’s finish quickly.”)と村人に呼びかける。村人たちは手に手に石を構え、テスィーに迫る。テスィーはまだ「フェアではないわよ」と叫んでいるが・・・。これから何が起ころうとしているのか、読者にもようやく分かる。(この短篇はネットでも読むことが可能なようだ。関心あれば、どうぞ!)
 米大統領選。トランプ大統領はいまだに「開票作業に不正があった。本来なら私が圧倒的に再選されていたはずだ」と譲らない。その主張に理解を示す人々も少なくないようだ。“The Lottery” が描く不条理の世界は今なお健在? まさか?!

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