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チャールズ・ディケンズ (Charles Dickens) ②

  • 2012-06-20 (Wed) 06:46
  • 総合

 ピップはやがて近くに住む大富豪のハビシャム女史と知り合う。もう何十年も日の光を見ていず、陰湿な屋敷で世捨て人の日々を送っているミステリアスな女性だ。彼女には養女のエステラというピップと同じ年頃の少女がいて、とんでもない高慢ちきな小娘なのだが、読み進めるうちに、ハビシャム女史の隠遁生活、エステラの高慢さの理由が明らかにされる。そうしたことを知る由もないピップはエステラの美しさに圧倒され、自分もエステラと釣り合うようなジェントルマン(紳士)になりたいと願う。
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 ミセスジョーは暴漢に襲われ、脳や身体機能に重傷を負い、寝たきりの身となる。幼馴染の少女ビディが介護役を買って出る。ピップ少年は一人前の鍛冶屋となるべく修業に精を出すが、エステラへの思慕の念が募るにつれ、仕事にも自分の境遇にもますます嫌気が差してくる。
 再読していてピップに「あきれる」シーンがある。ビディに対する無神経な発言だ。私は男だから女性の気持ちは分からないが、これはとても異性に対して失礼な物言いだろう。ビディにはエステラと比較になるような美しさはなかった。むしろ「平凡な」(common)顔立ちの少女だった。だが、彼女はエステラにはないものがあった。「愛想が良く」(pleasant)「健やかに育った」(wholesome)「気立ての優しさ」(sweet-tempered)だ。
 ピップがジョーに弟子入りして一年近く経過。ピップは何とか今の単調な暮らしを脱却して、ジェントルマンになりたいと悶々とした日々を送っている。ある日、ビディを誘って湿原を散歩していて、ピップは心置きなく語れるビディに自分の心境を吐露する。「僕は今の自分に全然満足できないんだ。仕事にも人生も不満だらけだよ」(“I am not at all happy as I am. I am disgusted with my calling and with my life.” )と。その上で、ジェントルマンになりたいのは、ハビシャム夫人の屋敷で出会った比類のないほど美しいエステラの心を射止めたいがためだということも白状する。さらにピップは次のように続ける。
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 「もし僕が君に恋するようになれば、・・・僕たちは長い付き合いだから、僕がこんな風なこと言っても、君は気にしないよね?」
 「あらあら、そうよ。全然気にしないわ」とビディは言った。「私に気をつかうことなんかないから」
 「もし、そうなってさえしまえば、それで万事解決するんだが」
 「でも、あなたは決してそうなったりしないことよ」とビディは言った。
 ( “If I could get myself to fall in love with you, --you don’t mind my speaking    so openly to such an old acquaintance?”
   “Oh, dear, not at all!” said Biddy. “Don’t mind me.”
   “If I could only get myself to do it, that would be the thing for me.”
   “But you never will, you see,” said Biddy.)
 
 男は誰もこのような愚かさを経て成長するのだろうか。
 (写真は、ロンドンは再び好天に。爽やかな初夏の日差しの下、テムズ川河岸の光景。私は初めて見たミレニアムブリッジ(歩道橋)は2000年の完成とか)

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