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グレアム・グリーン(Graham Greene)①

  • 2012-10-02 (Tue) 06:18
  • 総合

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 グレアム・グリーンにゆかりの地を探していて、ロンドンの北、電車で30分ほどの距離にあるバーカムステッド(Berkhamsted)が作家の故郷であり、毎年彼の誕生日(10月2日)前後の週に作家の偉業をしのぶフェスティバルが催されることを知った。今年が15回目になるという。フェスティバルに足を運び、彼が1948年に発表した“The Heart of the Matter” (邦訳『事件の核心』)について書いてみたい。
 この小説は数年前に一度読んだことのある作品で、今回の旅を前に再びこの本を手にした時、恥ずかしい話だが、どういう小説だったか思い出せなかった。この本に関しては最初に日本語の翻訳本に目を通し、英語の原書で訳を確認しながら読み進めていった。正直に書くと、翻訳本は正直読みづらかった。
 物語は西アフリカの英国植民地が舞台で、第二次大戦が時代背景となっている。主人公のスコービーは警察の副署長。15年ほど勤務したところで、上司の署長が転勤となるが、自分が署長に昇格する人事は実現せず、結婚14年の妻のルイーズは精神的にショックを受けていることが分かる。
 作品の冒頭近くに例えば、次のような会話がある。
  「閣下」 “Sah?” 「なにかあったのか?」 “Anything to report?” 「署長がお会いしたいと言っておられます、閣下」 “The Commissioner want to see you, sah.”
 これはスコービーと部下の巡査部長のやり取りだ。いくら植民地時代の現地の黒人警察官と白人の上司との会話でも、「閣下」は大げさ過ぎるという印象を禁じえない。役職名の「副署長」で十分だろう。
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 ルイーズは心機一転、南アフリカ行きを決意する。それには200ポンドの大金が必要で、スコービーは自分の良心に反する行為で何とかその金を工面する。彼女を送り出す船が港に入るのを二人は港に面した自宅から目にする。その時の二人の心境が happiness is never really so welcome as changelessness と説明されている。翻訳本では「幸福は実は変化のない生活ほど歓迎すべきものではない」と訳されていた。その通りだろうが、理解しづらい訳文だ。「毎日きちんと同じ暮らしができれば、それで十分満足なのだ」ぐらいの意味だろう。
 本好きのルイーズは、同じく詩を愛好する、植民地関係の団体の信任会計係として着任したばかりのウィルソンと親しくなる。この青年が本当は何を仕事としているのか、読者は不思議に思いながら読み進めることになる。作家が熟知していたスパイ活動が本業か。
 グリーン・フェスティバルでは作家の作品に精通している大学教授や専門家の人たちが研究の成果を披露していた。地元の作家ファンも多かった。私がケンブリッジからロンドン経由で片道2時間で来ていることを知ると、とある初老の夫婦が「良かったら我が家にいらっしゃい」と誘ってくれた。こういう親切はまことにありがたい。
 (写真は上から、バーカムステッドの中心街。左の建物は1859年建設のタウンホール。グリーンも保存活動に加わった。近くを歩いていたら、教会での結婚式に遭遇。披露宴に向かう花嫁)

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