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ヘンリー・ジェイムズ(Henry James )④

  • 2012-06-28 (Thu) 18:17
  • 総合

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 イザベルの友人、ヘンリエッタの選択した生き方も興味深かった。彼女はニューヨークの雑誌にヨーロッパの紀行文を送っている行動的な記者だ。アメリカという若い国へ愛国心に満ちた女性で、ことあるごとにイングランドの古い慣習、階級社会への不快感を隠せない。例えば、イザベルがイングランドで恋に落ち結婚する人生を歩むのではないかと危惧してラルフに言う。“I’ve got a fear in my heart that she’s going to marry one of these fell Europeans, and I want to prevent it.”(私はイザベルが堕落したヨーロッパの男の一人と結婚することになるのではという不安があるのよ。それを阻止しなくては)。ウォーバートン卿にはさらに辛辣に言う。“I don’t approve of lords as an institution. I think the world has got beyond them—far beyond.”(私は貴族制度など認めていませんことよ。世界はそんな制度などとっくに打ち捨てて進んでいますわ。はるかかなたに)
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 そのヘンリエッタも物語の最終部分で母国を捨て、イングランドのバントリング氏と結婚することを決意する。彼はずっとヘンリエッタの旅に親切に付き合ってきた気前のいい男性だ。驚くイザベルに向かって彼女は言う。「そうね。確かに彼はインテリってわけではないわ。でも、私たちアメリカ人はインテリってことにあまりにこだわり過ぎるんじゃないかしら」と。“I only say that we’re too infatuated with mere brainpower; that, after all, isn’t a vulgar fault. But I am changed; a woman has to change a good deal to marry.”(私はアメリカ人が知力というものにこだわり過ぎているのではないかと言ってるのよ。それってまあ、恥ずべき欠点ではないにしてもよ。ところで私は変わったわ。女性は結婚に踏み切るためには大いに変わらなくてはならないのよ)
 若さあふれる新興国のアメリカが歴史と伝統のイングランドに「屈した」印象までは受けないものの、作家が没する1年前の1915年にアメリカから英国に帰化したエピソードをふと思い出した。
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 ジェイムズが暮らしたラムハウスは地元の人たちがボランティアとなって案内役を買って出ていることは先に紹介した。英国の田舎を訪ねる旅の本や歴史物語などの著書がある作家のジェイン・ストラザーズさんもその一人。彼女は「ラムハウスには聖地巡礼のように作家の信奉者が訪れています。彼は生前は尊敬はされていたものの、文体の長さ、難しさからベストセラーを誇るような作家ではありませんでした。祖父がニューヨークの大金持ちだったので、お金の面ではあまり苦労しなかったことでしょうが」と語る。
 「彼が英国、イングランドに惚れこんだのは、彼がアメリカ人というよりもより英国人のように感じたということではないでしょうか。逆のケースもあるでしょうが。米国籍を捨て、英国籍を選択した一因は、第一次大戦で米国が最後まで参戦をためらったことに抗議する意味もあったと理解しています。彼は独身を貫きましたが、友人の作家や画家たちと語らうことは好んでも、プライベートの部分は一人を欲する、そういう性分の人だったのではないかと思います」
 (写真は上から、ライのサウスクリフと呼ばれるところ。かつてはこの崖の下まで海だったという。今では海岸線は見はるかす、ずっと向こうまで退いてしまっている。ラムハウスは日本人観光客も多いようだ。日本語の案内文も置いてあった。話を聞かせてもらった作家のジェイン・ストラザーズさん)

Comments:2

やすよ 2012-06-30 (Sat) 11:03

元気なレポートを楽しみに読んでいます。省一さんの鑑賞を聞いて(読むと)洋画を見ている時の背景や生活がその時代の様式形式、価値観など見せてくれるような、あの得した感じになります。各氏のコメントも勉強になります。
 
ところでふるさとニュースです。
『銀鏡神楽ー日向山地の生活誌』弘文堂より7月20日発売。

   それではまた~お元気で! 
 

省一 2012-06-30 (Sat) 21:29

やすよさん ありがとうございます。アメリカもいいところでした。イングランドは少し落ちるかなと思っていましたが、ロンドンを離れると、いや、なかなかどうしていい町が沢山あるようです。どこでも普通の観光ルートから外れたところは魅力一杯の感じです。銀鏡神楽のCDは興味ありそうなイングランドの人には見せています。先夜はお酒が入っていたため、健やかに寝られてしまいましたが。

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