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ウエストエンド

  • 2012-10-16 (Tue) 21:51
  • 総合

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 今回の旅で楽しみの一つはウエストエンド(West End)の観劇だった。
 一番好きなのは、ストレートプレイ(straight play)と呼ばれる「歌唱のない一般的な舞台演劇」だ。ウエストエンドでは世界一長く公演しているストレートプレイがある。アガサ・クリスティの推理劇「マウストラップ」(The Mousetrap)。ロンドン勤務時代には日本から友人知人が来ると、この劇を観に連れて行った。久しぶりだったので、粗筋は覚えていたものの、細部は忘れていて、肝心の犯人の目星も怪しいものだった。1952年11月初演というから、延々60年続いていることになる。この辺りは日本の演劇界が逆立ちしてもかなわないかと思う。ただ、一つ気になったのは、役者の演技がかつてほど冴えていなかったような気がしてならなかったことだ。修業中の代役(understudy)のせい?
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 「ブラッドブラザーズ」(Blood Brothers)も何回観たか分からない。これは粗筋も良く覚えているし、特段再び観ようとは思っていなかった。しかし、新聞の劇場欄を読んでいて、10月末でロングランのこのミュージカルが終止符を打つと書いてあった。驚くとともに、それなら、せっかくの機会だから最後の公演を観ておかなくては!
 ロンドン五輪の影響でウエストエンドの劇場はこの夏の客足が落ち込んだともどこかで読んだような気もする。ウエストエンドの一角にあるフェニックスシアターに足を運んだ。
 公演が終わりに近いこともあってか、劇場はほぼ満席のようだった。私の前には地元の高校生ぐらいの年齢の少年少女が大勢座っていた。「ドラマ」の授業の一環で来たとのことで、公演中にノートにメモ書きのボールペンを走らせる少女もいた。
 この劇は、1960-80年代のイングランドが背景になっており、生後すぐに生き別れになった双子の若者及び周辺の人々の悲劇を描いている。貧困ゆえに母親は双子の一人、エディーをメイドとして働いていた裕福な家の子供のいない夫人に、請われるままに「譲渡」する。夫人はこの子供が生みの親やもう一人の双子、ミッキーと出会わないように腐心するが、運命のいたずらか、行く先々で二人の双子は出会ってしまい、意気投合、真相を知らないまま、ブラッドブラザーズ(同志)としての誓いを立てる。エディーは大学に進み、公務員となる。ミッキーはエディーも良く知る幼馴染のリンダと結婚はするものの、犯罪に手を貸したことから転落の人生を歩む。ミッキーは何とか立ち直ろうとあがき、エディーも陰ながらリンダを通して手助けする。エディーの善意をリンダ目当てと誤解したミッキーはエディーの職場に乗り込み、銃を向ける。そこに駆けつけた母親が狼狽の果てに、二人は実の双子だと告げる。結果は無残にも・・・。
 私の前に座っていた女子高生たちはハンカチを濡らしながら観ていた。いつも以上の盛大なカーテンコールだった。これだけ多くの人たちに受けている劇がなぜ終演となるのか? ふと思った。失業や不況、閉塞感は今も英国や欧州全体を覆う大きな問題だ。この劇が訴えている問題の深刻さは何ら変わりはない。劇場にわざわざ足を運ばなくても、それは日々体験していること。客足が鈍っていたのは何も、ロンドン五輪の影響だけでないのかもしれないと思った次第だ。
 (写真は上が、「マウストラップ」の劇場。下が、「ブラッドブラザーズ」の劇場)

Comments:2

Taka Asai 2012-10-17 (Wed) 20:52

省一さん、18日東京着で帰国されるとか。6か月にわたる一人旅、お疲れさまでした。ぼくにはとても真似などできません。アメリカに続いてほぼ数日のインタバルで紀行文を読ませていただき勉強になりました。宮崎に帰えられた後、時間ができましたらまた瀬戸内海を渡って徳島へおいでください。あらためてクラブのリーダーの板東からお願いがあると思います。長い間、ありがとうございました。

那須 2012-10-17 (Wed) 23:25

Asaiさん こちらこそ、ご愛読ありがとうございました。徳島でまた会える日を楽しみにしております。

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