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ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)③

  • 2012-09-21 (Fri) 06:55
  • 総合

 ダブリン市内にあるジェイムズ・ジョイス・センター。住宅街の一角にあり、注意して歩かないと通り過ぎてしまいそうな記念館だ。作家が実際にここに居住していたわけではない。ありがたいのはセンターを基点にした有料のガイド・ツアーが随時催されていること。私は “Dubliners” ゆかりの場所を歩くツアーに参加した。
 私が参加したグループを案内してくれたのは、ライラ・クロフォードさん。アイルランド人かと思っていたら、アメリカ人だった。アメリカの大学を卒業した後、ダブリンに研究のためやってきたという。
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 まず、少年ジョイスが学んだ中等学校に当たるベルベデールカレッジのビルを外から見た後、“Dubliners” では“The Boarding House” として描かれるモデルとなる建物まで歩く。今は空き家となっていた。「ジョイスはこの時、近くに住んでいて、ボーディングハウスを見ながら、学校に通っていたのでしょう」とライラさん。そうしたゆかりがある建物とはとても見えない。ツアーに一緒に参加していたイタリア人女性で高校の英語教師のフランチェスカさんが「何ともったいない。ジョイスは20世紀の最も偉大な作家の一人。せめてそうした表示だけでもして、文化財として保護していくべきだわ」と彼女は憤った。
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 グレシャムホテルまで歩いた。“The Dead” でガブリエルとグレタの夫妻が一夜を過ごす高級ホテルだ。ライラさんは “Dubliners” の本を開き、「私は“Dubliners” の中では“The Dead” が一番好きです。雪が舞うのをガブリエルが一人ホテルの窓から眺める最後のシーンの描写が特にいいですね」と語り、その文章を読み上げた(注)。
 1時間半ほどのツアーの最終地点はトリニティカレッジ(TCD)。「トリニティは当時、プロテスタントの学生が通う大学でしたから、カトリックのジョイスはユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)に進学しました。そういう事情があり、彼はTCDにはずっと嫌悪感を抱いていたようです」とライラさんは説明した。
 ツアーが終わった後名残惜しいので、近くのパブで地元のギネスビールを飲みながら歓談。ジョイス文学、特に “Dubliners” に特徴的な「ひらめき」(epiphany)について、ライラさんの話に耳を傾けた。「エピファニー」とは、何気ない観察から突然、物事の本質が見えてくることを指す表現で、“A Painful Case” で登場する独身の男や “The Dead” でのガブリエルの「気づき」が「エピファニー」の典型的例だという。
 ジョイスはどういう人物だったのでしょうかね、気難しそうに見えますが、とライラさんに尋ねてみる。「尊大な(arrogant)印象の人物だったと聞いています。でも、あれほどの文才に恵まれていたわけですから、誰だってそうなるのではないでしょうか」
 余談になるが、フランチェスカさんはイタリアの高校生が「英語を熱心に勉強しないので困っています」と話していた。ヨーロッパの若者は誰でも一通り英語を話せると思いがちだが、実際はそうでもないようだ。そう言えばゴールウェイ沖のアラン島でイタリアの若者グループと出会い、「ぶつ切り」の英単語で少し語らったが、彼らは驚くほど英語ができなかった。英語に苦しむのは我々日本人だけではないようだ。
 (写真は上が、“Dubliners” ゆかりの場所を歩くツアーで、右の女性が案内してくれたライラさん。下は、小編 “The Dead” に出てくるグレシャムホテルの前)

 注)最後のパラグラフで、次のような一節だ。
 A few light taps upon the pane made him turn to the window. It had begun to snow again. He watched sleepily the flakes, silver and dark, falling obliquely against the lamplight. … His soul swooned slowly as he heard the snow falling faintly through the universe and faintly falling, like the descent of their last end, upon all the living and the dead.

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