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モービー・ディックの町へ

  • 2011-09-24 (Sat) 05:49
  • 総合

 NYを出て、ニューイングランドと呼ばれる北東部に来ている。今いるところはニューベッドフォード。ハーマン・メルビルの名作『モービー・ディック』(Moby-Dick)の舞台となった町だ。
 長距離バスでこの町の停車場に降り立った時は、うら寂しい町に来たなという印象を抱いた。それでも、この町は人口10万人近いマサチューセッツ州南部の中心都市だという。
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 街を歩く。石畳があり、いかにも歴史を感じさせる。通りには町の歴利を説明した案内表示があり、それを読むと、この町が19世紀から20世紀初めにかけ、捕鯨(whaling)で栄えたことが分かる。観光案内所のような事務所を訪れると、町の歴史を20分間のビデオにまとめたものを見せてくれた。タイトルは “The City That Lit the World”(世界を照らした町)。かつて世界の捕鯨の中心地だった誇りがビデオから伝わってきた。
 “Lit” という表現が使われているのは、かつては、クジラの脂肪油である鯨油が灯油として、またロウソクの原料として活用され、世界の夜を照らしたからだ。特にマッコウクジラ(sperm whale)の頭部から採取された sperm oil と呼ばれる潤滑油が重宝された。だが、それも石油の発見で需要が激減し、ここでは1925年を最後に捕鯨船は姿を消す。
 タクシーに乗って、郊外の安ホテルに向かう。ダウンタウンに宿泊したいのだが、ここでも手が出ない。運転手さんが言う。ダウンタウンにいる時はバッグに気をつけて。ドラッグでいかれている連中が多いからとのこと。ここでも図書館をのぞく。いや、ここも無料で私のような者にも本を読ませてくれるし、ラップトップも使わせてくれる。いや、第一、私が地元の住民か旅行者かどうかもほとんど気にしていないようだ。このあたりの懐の深さがさすがアメリカ――。
 図書館受付のわきにパソコンが置いてあって、顔写真付きで名前、住所、人種、髪の毛の色、身長、体重などが付記された画面が次々に変わっていく。何だろうと思ってのぞきこむと、”This individual is not wanted by the police.” (この人は警察が行方を追っている人ではありません) と画面の一番上に書かれている。画面の下には主に幼児・少年・女性に対する性的暴行事件の犯罪歴が記されている。そばに立っていた中年男性が「驚いたかい?ここにはこういう恥ずべき連中が300人ぐらいいると聞いているよ」と声をかけてきた。こうした「告知」が図書館のような公的施設でなされるのもアメリカの現実か。
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 ニューベッドフォードに着いてから、毎朝、朝食を食べに足を運んでいたダウンタウンのレストランがある。パソコンも使えるし、居心地がいい。なぜか夕方は6時で店仕舞い。もったいない。お店の若者に夜もやれば繁盛するのにと言うと、「前は夜8時までやっていたけど、最近は誰も夜はこの辺りは歩いていないので、6時で店仕舞いにした」と語る。
 (写真は上が、ニューベッドフォードのダウンタウン。観光客を対象にしたツアーガイドに何度も遭遇した。下が、図書館前に立つ捕鯨の歴史を象徴するアート)

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