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記憶力

  • 2016-11-22 (Tue) 14:15
  • 総合

 また東北地方が激しく揺れた。津波警報まで出た。内憂外患。これから日本に暮らす人々は大変な時代を生き抜かなくてはならない。愚禿凡夫の私にできることは・・・?
                 ◇
 安倍首相が訪米し、次期米大統領に就任予定のトランプ氏と非公式に会談したことを民進党首脳が「朝貢外交」だと批判した。私はともするとこの朝貢を「ちょうぐ」と頭の中で読んでいる。どうということもない話だが。
 英字紙「ジャパン・ニュース」で、トランプ氏の長女、イバンカ嬢が、彼女の娘、つまりトランプ氏の孫娘があのPPAPを歌っているビデオをインスタグラムに投稿したとか。イバンカ嬢は娘の歌を聞いたら「ずっと耳に残るわよ」(may be stuck in your head all day)と警告していた。ピコ太郎のあの歌は私も嫌いではない。日本の芸人の英語が世界中で「受容」されていること自体が素晴らしいと思う。誰も彼の英語の発音やイントネーションが怪しいなどと言っていない。参考までにイバンカ嬢が警告している「耳にずっと残る」類のリフレインを英語ではearworm と呼ぶらしい。
                 ◇
 図書館で日本文学の書棚を漁っていて、ふと坂口安吾(1906-55)の単行本を手にした。特段好きな作家というわけではない。『堕落論』とかいう代表作で知られる作家であることは知っているが、その代表作は読んだことがない。昭和期の作家の短篇をまとめた文庫本か何かで二、三の作品は読んだことはある。『桜の森の満開の下』という短編は幻想的な怪異小説で、深山の満開の桜の花の下を通ると、人はなぜか狂気に追いやられるということが述べられていて、妙に印象に残っている。
 図書館で手にした本は坂口安吾の短篇集の『アンゴウ』(鳥有書林)。「シリーズ日本語の醍醐味①」とうたっている。椅子に座り、パラパラと頁を繰った。幾つかの作品を読み、満足してそろそろ本を本棚に戻して帰ろうと思い、最後に末尾にある編者の解説に目を走らせた。編者は表題作の『アンゴウ』と収録作品の一つ『無毛談』をぜひ読んで欲しいと書いている。どんでん返しもあり、読後感がまた格別と推奨している。「安吾がいかに小説づくりが巧みで、しかも心やさしい作家だったかがよくわかるだろう。文章も読みやすい。人をいとおしむ気持ちが端々ににじみ出て、切なくなる」と。これら二つを読了する前に本棚に返すところだった。再び腰を落ち着けて読書。
 『無毛談』はなるほど面白かった。自分自身の禿げの話から入り、お手伝いさんの下半身の話まで見事な起承転結。表題作の『アンゴウ』は最初の数行を読み始めて気がついた。お、これは前に読んだことがある。結末も何となく覚えている。先の大戦から帰還した男が妻の不貞を疑る物語で、結末は男の疑念などかなたに吹き飛んでしまう親子の情愛が描かれていたような・・・。改めて再読した。間違いなかった。
 編者の解説の言葉に偽りはなかった。『桜の・・』とは全く異質の読後感だった。しかし、『アンゴウ』を最初に読んだのはそう昔ではない。それなのに、すっかり読んでいたことを失念するとは。嗚呼、情けなや!

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