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『ロクサーナ』

  • 2015-11-20 (Fri) 11:16
  • 総合

 前々回の項でジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』(Gulliver’s Travels)の読後感について触れた。この書を読むために図書館から借りた世界文学全集(集英社)には、スウィフトと同時代に生きたダニエル・デフォーの『ロクサーナ』(山本和平訳)も一緒に収められていた。これも結構な長さの小説であり、全然読むつもりはなかった。つもりはなかったが、題名があれ? どこかで目にしたような・・・。
 本棚をあさったらその本、つまり原書の “Roxana” が出てきた。イギリス文学紀行本を書くため英国を旅する前に、デフォーの “Robinson Crusoe”(『ロビンソン・クルーソー』)を読んだ際に、彼の著作をもう一冊ぐらいは読もうと思って買い求めた本だった。ただ、読もうとしたら、何だか読みづらい本であることが分かり、早々と放棄、積読つんどくにあいなった本だった。もったいない。これも神様のお告げかもしれない。そろそろ読んだらという・・・。
 それでとりあえず、全集の翻訳本を読むことにした。途中で気になる個所が出てきたら、“Roxana” を繰って確認しながら読み進めた。『ロクサーナ』は18世紀に生きた一人の女性の波乱に富んだ生涯を描いた小説だ。18世紀、つまり日本なら江戸時代に書かれた小説だということを忘れるほど、今の世と大差ない男女関係のあやに引き込まれた。
 「幸運な女の物語」と副題の付いた『ロクサーナ』は冒頭近くに次のくだりがある。もし自分の将来の幸福ということを大切になさるおつもりなら、もし夫なるものと快適に暮らすおつもりなら、(中略)お嬢さま方、絶対に馬鹿と結婚してはなりません。馬鹿でさえなければどんな夫でもいい。結婚の相手によっては不幸になることもありましょう。しかし馬鹿と結婚したら悲惨です。くりかえしますが、相手によっては不幸になるかもしれない。しかし馬鹿が相手だと、不幸まちがいなしなのです。参考までにこの部分は私が買い求めた原書では以下のようになっている。If you have any Regard to your future Happiness; any View of living comfortably with a Husband … Never, Ladies, marry a Fool; any Husband rather than a Fool; with some other Husbands you may be unhappy, but with a Fool you will be miserable; with another Husband you may, I say, be unhappy, but with a Fool you must; …
 女性の視点に立てば、何とも痛烈、痛快な文章だろう。独り身の私は少なくともこの点だけは「免罪」されると感じてしまった。情けない。翻訳本ではロクサーナが最後には富と名誉を飽くことなく求めた放縦な人生のつけを払う形で零落したことが明かされているが、原書の解説では18世紀以降、それぞれの時代の読者におもねるかのように、結末部が異なる本が出ていたとも述べられていた。
 ところで、私が “Roxana” を積読にしていた理由。それはこの小説が章立てになっておらず、だらだらと物語が綴られていたからだ。それも地の文章が延々と。ルイス・キャロルの名作 “Alice’s Adventures in Wonderland”(『不思議の国のアリス』)の冒頭で、姉の読んでいた本をのぞき込んだアリスが「挿絵も会話文もない本なんて何の役に立つの」と不可解に思う場面(注)がある。私もアリスの意見に大賛成。挿絵はともかく、会話文のない本は厄介だ。私はそういう小説はまず買わない。(注:この冒頭の文章は続で)

 Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, ‘and what is the use of a book,’ thought Alice, ‘without pictures or conversations?’

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