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ドグラ・マグラ

  • 2015-04-30 (Thu) 16:21
  • 総合

 世の中はゴールデンウイークの真っただ中にあるようだ。会社勤務におさらばすると、そんなこととはほぼ無縁の暮らしとなる。電車に乗っていて割と空いた車内を見て、ああ、今日は休日(祝日)なんだと初めて気づく。
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 そんな中でも、海の向こうの大リーグは毎日パソコンやテレビで楽しんでいるが、残念なニュースが飛び込んできた。ニューヨークヤンキースの田中将大投手が右手に故障をきたし、故障者リスト(DL)入りしたというのだ。治療後の調整を含めると今後1か月間は登板すること能わずとか。昨年の後半戦に泣かされた故障とは部位が異なるようだが、彼の今季の活躍を期待していただけにがっかりだ。
 地元のニューヨークタイムズ紙のホームページをのぞいてみると、“A Troubling Sign as the Yankees’ Ace Is Sidelined Again” (ヤンキースのエースが再び戦線を離脱し、チームに暗雲)という見出しで田中投手の戦線離脱を報じていた。誰もが認めるエースとなっている田中投手の戦線離脱がチームに痛くないわけがない。ファンが投稿するネット上の書き込みを見ても、彼らの失望の声が満ちている。私は一人の日本人としてマー君の活躍が楽しみだったが、これで大リーグを注視する興味は当面半減した。
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 風変わりな小説を読み終えた。明治から昭和初期に生きた福岡出身の作家、夢野久作(1889-1936)の代表作と言われる『ドグラ・マグラ』(社会思想社)という作品だ。どう形容したらいいのだろうか。何とも怪異、異様な筋立ての小説だった。
 夢野久作というペンネームからして面白い。最初の探偵小説の原稿を読んだ父親が「ふーん、夢野久作が書いたごたある小説じゃねー」と感想を言ったので、このペンネームになったとか。手にした文庫本には、この名前は「博多地方でぼんやりして夢ばかり追う間抜け人間」を指す代名詞だったと解説されていた。その感想をもらした父親の杉山茂丸は国家主義的右翼団体・玄洋社とも関わりの深い、明治から昭和にかけ政財界の黒幕として活躍、その名を広く知られた人物だという。
 『ドグラ・マグラ』で描かれているのは「狂気の世界」。上記の解説ではあの江戸川乱歩でさえ「狂人自身が書いた狂気の世界」と評して、高く評価することはなかったエピソードが紹介されていた。確かに常識では受け入れ難い物語が展開される。————一千年以上前の中国は唐の時代に生きた画家が描いた絵巻物。絵巻物には画家が愛した美しい妻をお互いの同意のもとに殺めて、その妻の死体が描かれている。波乱万丈の展開を経て、画家の赤子が日本(福岡)に逃れてくる。忌まわしい絵巻物と一緒に。長い年月が流れ、その赤子の血をひく若者は美しい許嫁の従妹との祝言を前にして、許嫁を殺める挙に出る。若者は見てはならないあの絵巻物を目にしたようだ————。人間は本当に万物の霊長なのか? 狂人、狂気とはそもそも何ぞや? 
 夢野久作。不可思議な魅力を秘めた作家だ。彼の著作、まだあと何冊かはぜひ読んでみたい。このゴールデンウイークを退屈に過ごすことだけは避けられそうだ。

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