- 2012-07-11 (Wed) 22:54
- 総合
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ヴァージニアが姉のヴァネッサに抱いた思慕の念がすさまじい。ヴァージニアは夫のレオナルド(批評家)も敬愛しているが、「ヴァネッサの最初の子供は私」と考えるほど、わずか二つ年長の姉を母親のように慕っていた。
この二人の濃密な関係は二人が育った時代背景、家庭環境を含めて考える必要があるようだ。当時は女子が男子と同じように高等教育を受けるのはまだ時期尚早の時代であり、二人は兄(弟)のトビーがケンブリッジ大学で教育を受けるのを忸怩とした思いで見守ったとある。また、厳格で自己中心的な父親に対する強烈な反感もあり、特に繊細なヴァージニアには姉の庇護がオアシスのような癒しだったと言われている。
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1927年に刊行された代表作の一つで、自伝的要素の強い小説と言われる作品 “To the Lighthouse”(邦訳『灯台へ』)を読んでみた。
小説の舞台はスコットランドのスカイ島。冒頭のシーンは灯台を望むラムゼー家の別荘で、ラムゼー夫人と6歳になる男の子供、ジェイムズとの会話から始まる。明日が好天だったら、灯台に行けることでしょうよ、と夫人はジェイムズに語る。ジェイムズはこの灯台行きをずっと楽しみにしていたようだ。しかし、続いて登場する父親の哲学者のラムゼー氏は、いや、天気は悪いだろうから、灯台行きは無理だと水を差す。ジェイムズは自分が今もし斧や火かき棒でも手にしていたなら、父親を刺し殺すのにと心の中で思う。父親とジェイムズを始めとする子供たちのただならぬ緊張した関係がうかがえる。
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実人生でのヴァージニアの同性愛志向もよく指摘されている。確かに、彼女は結婚後に深く愛して、親しく付き合った女性が数人いたようである。だが、彼女が夫の元を去ることはなかった。この点については、私はジェイン・ダン氏が1990年に著したヴァネッサとヴァージニアの伝記本 “A Very Close Conspiracy Vanessa Bell and Virginia Woolf” の見解を採りたいと思う。次のような記述がある。
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Vanessa was so central to her life, so closely implicated in her survival, that Virginia never managed to separate fully from her. It is against this emotional background – the hunger for the absent mother, the vesting of all her passionate feelings in Vanessa, the longing to become one again with the beloved – that Virginia’s relationships with other women must be placed. (ヴァネッサはヴァージニアの人生にとって中枢を占める存在だった。自分が生存する上で欠かせない存在だった。ヴァネッサなしに彼女の人生はあり得なかった。ヴァージニアが母親に代わる愛情の対象を渇望したこと、ヴァネッサがかつてそのような対象であったこと、彼女が最愛の人と一体化したいという憧れを抱き続けたことは、こうしたヴァージニアの感情的傾向を背景に考える必要がある。ヴァージニアのその後の同性との関係はそういった観点からとらえられるべきである)
(写真は、ヴァージニアが暮らしたモンクスハウス。落ち着いた雰囲気のリビングルーム。彼女の寝室。大きな窓から温もりのある陽光が差し込んでくる明るい部屋だった。姉のヴァネッサがヴァージニアを描いた肖像画。1912年の制作)
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