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トルーマン・カポーティ (Truman Capote) ②

  • 2011-08-02 (Tue) 15:15
  • 総合

 カンザス州は日本ではあまり馴染みがないが、アメリカの文字通り中央部に位置する州で、人口は約280万人。アメリカの人口は3億人突破というニュースを旅だった前後に聞いた記憶があるから、全人口の100の1を占めるに過ぎない州だ。
 合衆国に加わったのは1861年。ガーデンシティはその後に開拓者により開かれた。人口は約3万人。畜産と農業が主産業で、食肉処理に従事するメキシコからの移民が急増しており、この内65%はヒスパニック系と見られている。黒人の姿はあまり目にしない。
 町の歴史を展示しているミュージアムに足を運んだ。正式名称はガーデンシティが属する「フィニ郡歴史博物館」。資料室で事件が起きた当時の新聞をマイクロフィルムから読ませてもらった。(前回の項で示した新聞記事はここで入手)。事件の衝撃の大きさは記事の見出し、内容から伝わってくる。クラター一家と犯人の若者二人、リチャード・ヒコックとペリー・スミスは全く面識がなく、首謀者のリチャードは他の犯罪で服役中に囚人の一人から、「昔農作業を手伝ったことのあるクラター氏は羽振りが良かった」という話を耳にして、この強盗を思いつく。そして、囚人仲間だったペリーを誘う。
 警察は当初、クラター家に恨みを持つ者、従ってホルカムかその周辺に住む者の怨恨による殺人事件と見る。クラター氏が自宅に現金を置かないことは地元では広く知られており、また、夫人の高価な装飾品などが盗まれていなかったからだ。しかし、クラター一家は質実に暮らす模範的な一家で、人の恨みを買うような人々ではなかった。当時の報道では、”The Clutters were the last people you would ever murder.”(クラター一家は殺されるような人たちではありえなかった)とその人柄の良さが称賛されている。
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 「動機不明の殺人事件」として捜査は難航するが、リチャードに話をした上記の囚人が事件を知り、報奨金欲しさも手伝い、当局に情報を提供。捜査は一気に解決に向けて動き出し、「完全犯罪」と思い込んでいた二人は逃走先のラスベガスで逮捕される。
 犯人のリチャードは当時28歳。ペリーは31歳。『冷血』を読む限り、リチャードには「人間的深み」が感じられないが、ペリーは少し異なる印象だ。捜査や裁判を通し、次のようなことが分かる。ペリーの母親はアメリカインディアンであり、酒に溺れ、身持ちが悪く、父親と離婚。彼は満足に小学校にも行かせてもらえず、途中で引き取られた孤児院では修道女から手酷い虐待を受け、心に深い痛手を負う。また、彼は当初、事件への関与に消極的だったこと、ナンシーをレイプしようとしたリチャードを阻止したこと、にもかかわらず、最後にはペリーが一人で4人を殺害したことも判明する。
 しかし、捜査でも裁判でも、ペリーがなぜ、無抵抗の4人を惨殺したのか、という理由は明らかにならない。カポーティがこの事件を5年余にわたり、事件の当事者、関係者の克明な取材を続けたのも、この「なぜ」の解明に尽きるといっていいだろう。
 (写真は、1960年1月、犯人逮捕を報じる当時の新聞記事。左には当時のケネディ上院議員の米大統領出馬宣言の記事も見える)

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