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アーサー・ミラー (Arthur Miller) ②

  • 2011-10-07 (Fri) 02:20
  • 総合

 作品は父親のウィリーと長男のビフの確執を中心に展開する。ビフは父親のことをfakeとかphonyと呼んでその「偽善性」を非難するようになっていく。ある意味、父親と息子の葛藤の物語とも言える。
 タイトル名となっているセールスマンという仕事。この戯曲が発表され、公演が行われた当時、豊かな暮らしを求めた消費拡大のアメリカ社会を象徴する仕事だったようだ。自分の父親との関係など過去のいきさつにこだわりのないボスのハワードから解雇を通告される直前、ウィリーは彼にすがるように語る。”Selling was the greatest career a man could want.”(セールスは人が望みうる最上の仕事だった)と。しかし、それはバイアーに商品を好きなように売りつけることができれば言えることであり、友人から借金を重ねるようになっている「今」のウィリーにとっては過去の栄華に過ぎない。
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 終幕近くの場面で、ビフが父親に冷たく言い放つ。”Pop! I’m a dime a dozen, and so are you!”(父さん、俺は一山いくらの人間なんだよ。父さんも同じだよ!)。自分の人生を否定されたに等しいこの言葉に激しくあらがう父親に対し、息子はさらに二の矢を放つ。”You were never anything but a hard-working drummer who landed in the ash can like all the rest of them!.....Pop, I’m nothing! I’m nothing, Pop. Can’t you understand that? There’s no spite in it any more. I’m just what I am, that’s all.”(父さんは必死に働いてきたセールスマン以外の何物でもないんだよ。他の連中と同様、ぼろぼろになるまで働いて。父さん、俺は何の価値もない男だよ。何の価値もない。分からないのかい? もう俺は恨みなんかないよ。俺はただこれだけの男だ。言いたいことはそれだけさ)
 この作品が今なお輝きを放つ理由をコロンビア大学でアートを教え、数々の戯曲のディレクターとしてトニー賞を2回受賞したグレゴリー・モシャー教授に話を聞いた。
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 モシャー教授はアメリカ文学における ”Death of a Salesman” は音楽の世界で言えば、ベートーベンの「交響曲第5番・運命」のような金字塔であり、多くの作家、作品に影響を及ぼしてきたと語った。その上で、1940年代末のアメリカは世界大不況を克服し、第二次大戦にも勝利し、いわば「わが世の春」を謳歌していた。その最中に、ミラーはこの作品で次のように「警告」したのではないかと。 “Wait a second, wait a second. This is not so quite rosy as everybody have a spree. There is a strain of darkness inside the American dream. It causes people to kill themselves.”(ちょっと待って。世の中、皆が皆浮かれ騒ぐほど希望に満ちたものではない。アメリカンドリームには闇の傾向も備わっている。人々をして自殺に追い込むこともあるよ)
 そのような「警告」は当時のアメリカではショッキングな指摘だったのだろう。
 (写真は上が、モシャー教授。晩年のミラーと親交があり、「背が高くとてもハンサムな人だった」と語った。青空のコロンビア大学キャンパス。インタビューを終えた後、10年前の9・11の時もこの日のような青空が広がっていたと教授は空を見上げた)

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