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ジョン・スタインベック(John Steinbeck)④

  • 2011-07-05 (Tue) 13:46
  • 総合

 『怒りの葡萄』の舞台になったのは、サリナスバレーを始めとしたカリフォルニア州の肥沃な農業地帯だ。今ここを地元の人々は”salad bowl of the world”(世界のサラダボール)と自慢する。「西海岸」とか「アメリカ」ではなく、「世界」と表現するところが、さすが米国と言えようか。
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 そうした農場で汗を流して働いているのは、南の隣国、メキシコからやって来た人々だ。不法移民も多い。雇う白人農園主も当局も承知の上だ。先に、サリナスの人口約15万人のうち73%がヒスパニック系で、大半はメキシコからの移民と見られると書いたが、ヒスパニックコミュニティーのスーパーに行くと、メキシコに来た感覚に陥る。
 必然的に彼らは地元の白人社会からは複雑な目で見られている。一つには、犯罪、麻薬の問題があるからだ。のどかなオールドタウンのダウンタウンにいる限り分からないが、サリナスはアメリカでも有数のメキシコ系ギャングの巣窟となっている。対立するギャングの銃撃事件が絶えず、高校も事件の舞台になっている。私が滞在したわずか数日の間にも、メキシコ系の22歳の若者が未明に銃撃され死亡、地元新聞は「ギャング抗争に起因する事件」と報じていた。
 ヒスパニックコミュニティーでも若者グループのギャング抗争には心を痛めている。教師歴33年で最近退職し、サリナスのヒスパニックコミュニティーの指導的立場にあるフランシスコ・エストラダさん(56)に話を聞く機会があった。エストラダさんは「圧倒的大多数のメキシコ系アメリカ人は明日の暮らしが良くなるよう祈って、一生懸命働いている。ごく少数の不埒な連中が事件を起こし、残念にも我々のイメージを悪くしているのです」と語った。
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 ギャングに加わる若者の問題は、エストラダさんによると「アイデンティティーの喪失」だという。「私は5歳の時、両親に連れられて来た。2部屋の小さな家に13人が住んでいた。貧しかったが、家の中にrestroom(トイレ)がある暮らしが信じられなかった。私はスペイン語が話せるという理由で、同じようなメキシコ系の子供たちから狙われた。父親は自分がメキシコ人であるということに大いなる誇りを抱いていた。私もその誇りを受け継いだ。犯罪に走る若者は自分たちが誰であるか知らない、メキシコの言葉も文化も知らない。だから、メキシコ出身であることにプライドも持てないのです」
 サリナスがあるのはモンテレイ郡。エストラダさんはこの秋に選挙が行われるモンテレイ郡の教育委員会に立候補する予定だ。「地域住民の95%がヒスパニック系であっても、その地域のヒスパニック系の委員はゼロというのが実情です。私は教育委員となって、ヒスパニック系社会のためにこれまで培った教師としての経験を生かしたい」
 (写真は上が、サリナスで見られる広大な農場。メキシコ系の人々がセロリを収穫していたので写真を撮らせてもらった。ヒスパニック系社会の地位向上に貢献したいと意欲を語るエストラダさん。子供が3人に孫が1人)

Comments:2

Okabayashi 2011-07-05 (Tue) 15:05

さすが那須君だから、にフランシスコ・エストラダさんのような方とインタビューが取れるんですね。「私はスペイン語が話せるという理由で、同じようなメキシコ系の子供たちから狙われた」というのは、私たちの理解を超えている現実ですね。

nasu 2011-07-05 (Tue) 15:15

岡林先生 読んでいただき感謝します。ご指摘の件は、自分たちにないもの(言葉)、それも本来の祖国のものを持っているという嫉妬だと思います。そうした子供には英語もまた自分自身の血肉の言葉となりにくいのかもしれません。那須

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