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旅の終わり

  • 2011-12-22 (Thu) 05:31
  • 総合

 ちょうど半年の時間が流れ、昨夜、日本に帰国した。アメリカに着いた時は、今回の旅が果たして無事達成できるか心もとない部分もあった。先進国だからアフリカで体験したような困窮は心配していなかったが、それでもほぼ初めて訪れる都市ばかり。今、何とか帰国できたことをありがたく思う。
 旅の始め、スタインベックの項で彼が1962年に書いた紀行 ”Travels With Charley in Search of America” (邦訳『チャーリーとの旅』)を紹介した。作家が58歳の時に生来の旅心を抑え切れず、アメリカという自分の国を「知る」ために旅に出た紀行本だ。
作家は途中、オレゴン州で運転する特別仕立てのキャンピングカーの後部タイヤが過剰積載でパンク、今一つのタイヤも破裂寸前というピンチに陥る。辺りは人家もなく、ただ自動車道だけが果てしなく続く。その日はしかも日曜、雨も降っている。作家はのろのろ運転の末に幸運にも営業している小さなガソリンスタンドに行き着く。
 The owner was a giant with a scarred face and an evil white eye. If he were a horse I wouldn’t buy him. (出て来た経営者は顔に傷があり、邪悪な白い目をした大男だった。もし彼が競り市の馬だったなら、私は見向きもしなかっただろう)。大男の店にはスタインベックの車に合うようなタイヤはなかった。彼はスタンドの客に対応する合間を縫って何件もの電話をかけ、見合ったタイヤが置いてある店を探し出してくれる。その店に嫌がる義弟を走らせ、タイヤを取って来させる。作家は感謝の心で思う。That happened on Sunday in Oregon in the rain, and I hope that evil-looking service-station man may live a thousand years and people the earth with his offspring.(これは日曜日、雨のオレゴンでの出来事である。私はあの邪悪に見えるガソリンスタンドの男が一千年も長生きし、地球上に彼の子孫をまき散らしてくれることを願う)
 太平洋に面した西海岸のオレゴン州のガソリンスタンドの男の子孫がスタインベックの希望通り、全米に散って住まっていたかどうかは分からない。ただこのブログ欄で書いた通り、私の旅も作家が描いたような「心根」のやさしい、親切な人たちとの出会いに恵まれた。その意味でアメリカにはまだ「古き良き時代」のアメリカが根付いていた。
 とはいえ、アメリカが経済苦境にあえいでいることもまた事実。大都市ではかつて目にしたことのないホームレスの人々がいた。旅の最後のロサンゼルスでは中心街の交差点で毛布を引きずって歩き、ごみ箱をあさる一人の白人の若者を見た。ロサンゼルスにあまりに不似合いなホームレスの光景で、シャトルバスに同乗していたイギリスからの観光客の婦人は絶句していた。「ウォール街を占拠せよ」という、持たざる者の政治・経済体制への異議申し立ても2011年のアメリカの忘れ難い光景だ。米社会の1%を占める最富裕層と平均所得者層の収入の格差が40倍近くまで拡大しているとの報道にも接した。日本では考えられない数字だろう。
                  ☆
 「アメリカをさるく」はこれが最終回のブログです。ご愛読ありがとうございました。新聞社を退職し、無職となった今はこのブログ欄は「書く」ことのできる貴重なスペースとなっています。帰国後落ち着きましたら、また、何らかの形で「再開」できればと願っています。その時までしばしの間、さようなら。 

Comments:1

Domen Hiroshi 2011-12-22 (Thu) 23:15

那須先生、長期に渡り大変お疲れさまでした。文明の力や贅沢な旅ではなく、本来の旅の魅力を毎回のブログを通して堪能させていただきました。
今、福岡はとても寒い冬についに突入しました。那須先生は日本に戻って何をまず食べたくなりましたか?
アメリカのこってり味がまだ舌の中に残っていませんか?
早く福岡の世界一美味しい食べ物とお酒飲みたいですよね!

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