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帰郷の友

  • 2016-03-23 (Wed) 20:32
  • 総合

 今度はベルギーでテロが起きてしまった。狙われたのは国際空港の出発ロビーと地下鉄。多数の死傷者が出ているようだ。このようなソフトターゲット(soft target)は防御(警備)にも自ずと限界がある。卑劣極まりないテロ組織に対する憤りは今さら言うまでもないが、テロのニュースに接すると、暗澹たる思いにとらわれる。自然災害なら諦めもつくが、テロの被害はそうはいかない。無辜の市民を無差別大量に殺傷する行為はどのような政治的・宗教的背景があろうとも許されない。
 テロのニュースが世界を震撼させている中、私は久しぶりに田舎に帰郷する。ネットもできず、新聞も読めず、テレビだけが世界を知る窓口となる。さすがに大きな事件が起きている時の「隠遁」は心中複雑だが、物理的に致し方ない。帰福後にまた釜山に出かける予定なので、韓国語の学習に励むつもりだ。次回はもう少し日常会話ができるようにしたい。
                 ◇
 帰郷の友は文庫本だ。今回持参するのは『ペリー提督日本遠征記』(角川ソフィア文庫)。江戸末期、徳川幕府を開国に導いたアメリカのあのペリー提督の回顧録だ。書店で上巻をパラパラ立ち読みすると、何だか面白そうなので購入した。(原本タイトルは“Narrative of the Expedition of an American Squadron to the China Seas and Japan")
 序論では日本人や日本語の「特性」などが述べられている。1853年7月に蒸気フリゲート艦サスケハナ号で浦賀に来航したペリー提督が抱いた次の印象には多くの日本人が「同意」するのではないか。中国語を貶める意図は無論ない。「日本語の発音はすっきりしていて明瞭で、聞きやすく、英語のアルファベットが二、三字以上も入るような長い音節はほとんど耳にしない。一方、中国語は単調な歌でも歌っているように曖昧で抑揚がなく、耳ざわりで、次々に飛び出す子音の響きが不快感を増している
 第2章にはペリー提督が1852年12月にサスケハナ号の前に乗船していたミシシッピ号から母国の海軍長官へ送った公式書簡が紹介されている。提督が考える日本遠征の当座の目的が明確に記されている。「わが国の捕鯨船そのほかの船舶の避難および物資供給のために、一つそれ以上の港をただちに獲得しなければならない」と。以前に「オイルインダストリー」の項で書いたが、当時の世界では鯨油が目当ての捕鯨は重要な産業だった。提督が何としても日本との関係を構築したかった事情は次の文章からよくうかがえる。「海洋上のわが競争相手であるイギリスの東洋における属領を目にし、イギリスの軍港が不断にかつ急速に増加するのを見れば、当方も迅速な方策を推し進める必要に迫られている。世界地図を眺めると、大英帝国はすでに東インドや中国の海湾、ことに中国の海湾において、最も重要な地点を手中に収めている」。新興国のアメリカにとって座視できないライバルは旧宗主国だった。
 ペリー提督らが乗り込んだ軍艦はニューヨークを出港、大西洋をアフリカ・喜望峰に下り、インド洋を経由して日本に向かう。南アフリカで欧州列強の残忍な植民地経営を目の当たりにする。それを見ての提督の感想がいい。「われわれアメリカ人には他国の国民が、征服した国々の原住民に加えた非道をののしる権利はない。厭わしい偽善でその行為をとりつくろうイギリス人に比べればまだしもましかもしれないが、われわれも、土着の諸部族を欺き、残忍に扱ったことについては彼らと大差はないのである」。トランプ氏にぜひ聞かせたい述懐だ。

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