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April 2019

台北、再見

20190427-1556322249.jpg 昨日の金曜日。私にとって最後の授業出席が終わった。他の受講生にはこれからまだ12週間もの授業が残っている。彼らが羨ましい。だが、私はこれでおしまい。今日は福岡に戻る。最短3週間の聴講を選んだのには色々理由があるが、まあこれで良かったかと思っている。短い期間であったが、熱心に指導してくれる老師(先生)がとても有難かった。いいクラスメートとも出会えて良かった。彼らの中には英語があまり話せない子もいて、本当はもっとやり取りしたかったのだが、お互いの中国語のレベルではそれはとても無理。
 昨日は老師の計らいで授業の合間にみんなが一緒になって記念写真を撮影した。どうも場違いの男が一人、真ん中に写っているようだ。誰だ、この男は?それは私だよ!授業が終わった後、先夜に食事を一緒にしたインドネシア人の二人の女性が教室の外で小さな封筒を私に差し出した。ハンカチと一緒に英語と中国語の素敵なメッセージが入っていた。もっとも中国語の方はこれから辞書で調べないと詳しい意味が分からない。
 大学を後にして、クラスメートの一人だった李先生にランチをおごってもらった。李先生は私と異なり、まだ現役の身だが、他のクラスメートと比べれば格段に私の世代に近い。関西圏の大学で教えている李先生は日本語も流暢。それで最初の日から私たちは日本語で語り合い、ときに食事を一緒にした。李先生からお別れのランチをおごりたいと言われ、有難くお受けした。李先生は私などよりはるかに中国語に対する造詣が深そうだったが、発音・声調に関しては私同様に苦労されていた。
 李先生や他のクラスメートがこのコースを終えるのは7月の中旬。老師は私に「あなたは来られるようであれば、その日一日特別に参加したらいかが。歓迎しますよ」と言ってくれた。確かに無理な企てではない。格安チケットで7月のその週末、台北に飛ぶことも可能だろう。私の中国語のレベルが独学で着実にアップしていればまた改めて考えたい。私はこれから暇を持て余しそうな雲行きでもある。
 さて最後のホテル代も支払った。間もなくチェックアウトして空港に向かう。窓のない狭い部屋住まいだったが、慣れると特段の苦にもならなかったから不思議ではある。クーラーが効いて快適だったからかもしれない。中国語を学習していない時はテレビで野球や漫画を見た。何といっても「アンパンマン」が一番良かった。福岡に戻っても中国語の「アンパンマン」が楽しめるのだろうか。ぜひ楽しみたいと願っている。
 台北を去る前にやり残していることが一つあった。懐具合が心配でずっと無駄な出費を戒めていた。好きなサウナを利用したのも一回だけ。何しろ利用料金が600元(約2,300円)。これは台北では高過ぎだろうと思わざるを得ない。街中でよく見かける按摩の案内。1時間全身按摩が同じ600元。これはまあ妥当か。この按摩もずっと素通りしていたが、痩せ細った我が財布から出ていくお金はあとはたかがしれている。コインランドリーで最後の洗濯(140元=約530円)を終えた後、按摩のお店をのぞいた。厳しい仕事で汗を流している同年輩の方々には申し訳ないほど気楽な日々を過ごしている身とはいえ、それなりに全身に疲労はたまっている。その凝りをほぐしたいと思っていた。按摩は若い女性がやってくれ、終わったら期待以上に爽快な気分になった。これで思い残すことはない!

ヒアリングに難あり

20190425-1556203830.jpg 授業も残り少なくなった数日前、ごく簡単なヒアリングのテストがあった。老師(先生)が短文を読み上げる。さてその文章からどのようなことが読み取れるか?三つの選択肢から正答を選べという問題だ。繁体字で正確に記述するのは難儀なので、日本語で一問を簡略に紹介すると。<私の老師の姓は張です。夫人はフランス人です。彼らには女児が一人、男児が二人いて、それに波波という名の猫を飼っています。さて張老師の家は何人家族でしょうか? ①6人②4人③5人>。ペットの猫のくだりに惑わされてはならない。
 上記のような問題が10個読み上げられた。私はおおよその内容は推察できたが、即座に正答を問われるとさすがに面食らってしまった。漢字の正確な書き取りでは苦労しているクラスメートたちは意外と正答を口にしていた。少なからずショックだった。英語のヒアリングならある程度の自信はある。なぜ中国語ではだめなのか? ホテルに戻って老師がくれたプリントアウトを改めて読み返すと、一読しただけで理解できた。ごく簡単な文章だ。だが、その程度のヒアリングでも私はほぼお手上げになってしまうのだから情けない。
20190425-1556203122.jpg 先夜、クラスメートの2人と食事した。インドネシアから留学して来ている華人の子たちだ。安くて美味い食堂でランチを一緒した時に、そのうちに夕食をご馳走すると約束していた。ホテルの近くに手頃な日本食レストランがあったのでそこに案内した。3人で楽しく語らい合ったが、その時に「君たちはよくあの問題に難なく答えることができたね。僕には難しかったよ」と言うと、一人の子が「私が住む町はシンガポールのすぐそばにあって、中国語が身近です。両親も中国語を話せますし」と慰めてくれた。ああ、そうなのか。なるほど。
20190425-1556203768.jpg 台北を歩いていて、中国語の広告や案内・告知などは比較的容易に理解できることが少なくない。少し想像力を逞しくすればほぼどれでも理解できると言いたいほどだ。しかし、耳にする言葉はまだまだ難しい。できるだけ多くの言葉を耳にして慣れるより他に手はなさそうだ。これまで大学で学生たちによく言ってきた “Practice makes perfect.”(習うより慣れよ)を実践するしかない。福岡に戻ってからも一層頑張ろう!
                 ◇
20190425-1556203211.jpg 台北に着いて以来、気になっていたことがあった。スーツケースを買い換えねばならないということ。英国をさるいた旅以来、押し入れにあったスーツケースの「寿命」がどうもきたような気がしていた。出国前にまず取っ手の一つが破損した。鍵の調子も悪くなり、簡単に開け閉めができなくなった。底部の車輪も油が切れたのかすさまじい音を立てる。周囲の人々が珍しい物でも見るように私を見やる。それに重い。ロンドン特派員の頃から使っているから30年近い代物だ。内戦も取材した「戦友」のような存在だが、致し方ない。
 それで百貨店を中心にスーツケースを売っているお店を何軒かのぞいた。20,000と売り値が見える。お、これは手頃な価格だ。飛びつきたくなったが、よく考えたら、台湾ドル(元)の価格だ。日本円なら76,000円程度になる。今の私には手が出せない。最後に行き着いたお店で気にいったものがあった。今風のものだ。軽い。言葉がままならないなかでの交渉の末に4,850元(約18,400円)で決着。これなら私にも不満はない。軽くて収容キャパもある。重量超過で目が飛び出そうな罰金を支払わされることもなさそうだ。

また悲惨なテロが

20190423-1555972542.jpg スリランカで悲惨な大規模テロ事件が同時多発的に発生した。死者数はすでに300人近い。負傷者数も大勢いて、死者数は今後さらに増えていく可能性大だ。このようなテロをどのように糾弾すればいいのか、胸がふさがる。民族・宗教的な対立、確執が背景にあるのだろうが、テロが生むのは犠牲者・遺族の筆舌に尽くし難い悲しみと憎しみだけ。もし、宇宙のかなたから異星人が訪れ、今の地球を見たら、人類は何と愚かな生命体であると蔑むことであろうか。それに対し、我々は異を唱えることができるのだろうか。
 もし、異星人が人類よりもずっと優れた先進文明の生命体だったとしたら、(何万光年も離れたところから地球にやって来るのだから、人類より進んだ文明圏であることはほぼ間違いないだろうが)地球文明に厳しい「評定」を下し、人類を破滅させる挙に出たとしても何ら不思議ではないのではないか。そういう事態が起きて欲しくはないし、あり得ないことかもしれないが、ただ夢想するだけでぞっとするようなシナリオではある。
                   ◇
20190423-1555972496.jpg 私が今ここで手にしているのは中国語の初歩の教科書。NHKラジオの講座に比べればずっと易しい内容だ。文法的な事柄は学習済みのことばかりでいい復習になっている。
 私がここにいる間は老師(先生)の教えを受けることはない先の課を読んでいて、「蛋糕 ﹅我喜歡」(私はケーキが好きだ:I like cakes.)という文章が出てきた。これはSVOではなくOSVという形で目的語が文頭に出ている。教科書の説明によると、蛋糕(ケーキ:cakes) という目的語を強調するための文章だという。文章では読点(﹅)を入れたところを話し言葉では少し間を置くということだろうか。日本語ならば「私はケーキが好きです」と言うところを「ケーキ、私は好きです」という強調表現ということか。この点では日本語も中国語もほぼ同じ語順でOKと映る。
                   ◇
20190423-1555972462.jpg 台北での滞在も残り少なくなった。平日の朝飯はすでにこのブログで何回か写真をアップした食堂を必ずのぞいている。お昼に通るとお店は閉まっており、どうも朝飯専門店らしい。台湾ではこういったお店が珍しくないのだろう。
 最近は咸豆漿に卵焼きの「定番」に肉野菜が入った包子も追加注文している。それでも日本円の勘定だとわずか285円。私はいつも7時過ぎには利用しているが、少し遅く行くと店の外にまで行列ができている。厨房では5,6人の人が忙しく立ち働いているが、お店のお兄ちゃんは私がいつも食べるものを覚えてくれ、最近は私の顔を見ると上記の品を出してくれるようになった。
 授業が終わった後のランチと夕食はできるだけ新しいお店をのぞくように心がけている。街の「何の変哲もない」店をのぞき、そこで美味いものに出会えることが楽しみだ。たまに「失敗」することもある。「何の変哲もない」を英語で表現すれば nondescript という形容詞が頭に浮かぶ。先日はそうした食堂で美味い水餃子に出合った。総菜を含めお腹一杯に食べて日本円で400円程度。お店のおばちゃんも私の顔を覚えたみたいで、今では「おや、今日も来たのかい?」といった笑みを浮かべてくれる。

「麵包超人」

20190420-1555724404.jpg 木曜日の昼飯時、初めて入った食堂で美味い水餃子と麺を味わっていたら、ぐらっときた。最初は何が起きているのか分からなかったが、あ、これは地震だと気がついた。結構揺れた感じがした。数日前にもホテルの部屋でパソコンに向かっていた時に軽く揺れたことがあったが、台湾は日本と同様の地震多発国であるようだ。同情を禁じ得ない。
20190420-1555724438.jpg 中国語の講座のクラスメートの中には地震がない国から来ている若者もいて、老師(先生)を中心としたラインに「怖いよー」といった感じの感想が書きこまれていた。今回の地震も去年大きな地震に見舞われた東部の花蓮近くが震源地のようだ。
 実は当初の予定では今週末、つまり金曜午後からその花蓮に足を運ぶつもりだった。過去の旅で何人か親しくなった人がいるからだ。だが、懐具合が少し心配になってきたことと、台湾の残りわずかな日々を中国語の学習に励みたいという思いがあって、今回は花蓮訪問を断念したところだった。神様が今回は行くなと告げているのだと「解釈」した。
                  ◇
20190420-1555724472.jpg 投宿しているのは格安ホテルだが、既述の通りケーブルテレビが充実しているのがありがたい。運が良いと、夕刻からは巨人のゲームの生中継が楽しめる。早朝には大リーグ。へたすると中国語の勉強に来ている意味がなくなってしまう。上記のゲームは中国語らしき言語で放送されているのだが、耳を傾けても理解できる語は皆無に近いからだ。
20190420-1555724511.jpg 中国語の勉強になる番組もある。アニメだ。アニメ専門の局もあるようで、日本のアニメがしょっちゅう流れている。「ちびまる子ちゃん」(櫻桃小丸子)や「クレヨンしんちゃん」(蠟筆小新)などといった番組は人気があるようだ。昔はともかく、今はこうしたアニメ番組はまず見ない。それでこちらに来てからも「素通り」していたのだが、あるとき、中国語の学習に役立つことに気がついて、ありがたく視聴するようになった。
 私が一番気に入っているのは「それいけ!アンパンマン」(麵包超人)。日本にいる時は漫画でもアニメでも全く見たことがなかった。物語の筋も登場人物のこともよく知らない。新聞社勤務時代にアフリカから帰国して東京本社で働いていた頃、年下の同僚から、「那須さん、何だかアンパンマンに似てますね。うちの娘がアニメのファンなんですよ」と言われ、キン肉マンの類の漫画があるのだろうかと思ったぐらいだ。その後にアンパンマンのイラストを見て、特段嬉しくも悲しくも感じなかった。
 ホテルの自室。チャンネルをかちゃかちゃやっていて、「麵包超人」というタイトルを目にした。すぐに「アンパンマン」のことではと察しがついた。「麵包」は「パン」の意だと知っていたし、「超人」は「スーパーマン」のことだと想像がつく。そうか「アンパンマン」はこう表現するのか。パンの世界だけに美味い、いや上手い訳だなと思った。バイキンマンは「細菌人」という訳が当てられていたが、これも理にかなった訳語か。
 なぜ「それいけ!アンパンマン」が気に入ったのか? それは登場人物が口にする語彙が比較的容易なものばかりだからだ。それも割とゆっくり目のセリフだから大いに助かる。字幕(繁体字)で語彙をしっかり確認もできる。台北の人たちが普段から「アンパンマン」に出てくるような言葉をゆっくりとしゃべってくれないものかなと思ってしまう。
(注:麵包超人の包の字は繁体字では若干異なるが、私のパソコンではこうなってしまう)

初めて字が上手いとほめられた!

20190417-1555456248.jpg 先に書いたように、中国語の講座の老師(先生)は学習の一環として漢字の筆順も習得するように求めている。それでテキストの一つには筆記帳が含まれ、私たちはレッスンごとの漢字を正しい筆順で書き写すようになっている。
 ところで、台湾の漢字は繁体字と呼ばれる由緒正しい難解な字。最初これを目にした時はいやあ参ったなあという感じ(漢字)だった。NHKの中国語講座で学んできたのは中国で使われている簡体字と呼ばれる簡略化された字。例えば、学校は簡体字だと日本語とほぼ同様の学校だが、台湾では學校。書くのが実に面倒くさいと思った。ところがだ。何度も書いているうちに慣れてきた。飛行機は簡体字では飞机で書くのは比較的簡単だが、繁体字ではほぼ日本語のように飛機。視覚的にはより明確にその意味をアピールしてくる。
20190417-1555456273.jpg 先日の授業では受講生各自が黒板に板書させられたが、私が疑問文の文末に登場する字の嗎という字を書くと、老師に「字が上手だ」とほめられた。私はこれまで字が上手だとほめられた記憶はない。まさかこの歳になって、しかも漢字の本家の台湾でほめられるとは夢想だにしなかった。それで授業の後にカフェの一角に座して、小学生にでも戻った気分で筆記帳に向かっていると、自分の書く漢字がまんざらでもなく見えてくるから不思議だ。
                  ◇
20190417-1555456300.jpg 月曜日の深夜の時間帯。米ゴルフの最高峰、マスターズをホテルのテレビで見た。時差が日本と同様、厳しいため、途中で切り上げて寝るつもりだったが、何だかタイガー・ウッズが優勝するのではないかと思え、未明まで付き合ってしまった。最終ホールでボギーをたたいても優勝というのはタイガーらしくないと思ったが、プロ中のプロが競うマスターズで通算5度目、メジャーだけでも15勝目という素晴らしい復活劇を成しとげたタイガーに注文を付けられる人などいないのでは。
 BBCやCNNでは世界中の著名人の祝福の言葉を報じていた。面白いと思ったのはオバマ氏とトランプ氏の新旧両大統領が祝福の言葉を送っていたこと。水と油のような関係のこの二人が意見の一致をみる話題はそう多くないだろう。
20190417-1555456322.jpg BBCから両者の言葉を紹介すると。<Former US President Barack Obama, who played a round of golf with Woods during his time in office, paid tribute to Woods' determination after a difficult few years. "To come back and win the Masters after all the highs and lows is a testament to excellence, grit and determination," he wrote. US President Donald Trump said he loved "people who are great under pressure. What a fantastic life comeback for a really great guy!">
 オバマ前大統領の祝辞はよく理解できる。確かに精神的・肉体的な試練を乗り越えて復活を果たしたタイガーの優勝は「優秀さ、根性、決意」を物語っている。grit という語は昔はあまり目にしなかったような気がするが、最近ではちょくちょく目にする。私は「根性」と訳したい。トランプ大統領の祝辞はどうということもないが、彼はよくよく great という語彙が好きなようだ。自分自身もgreat under pressure(プレッシャーに強い)と考えているのだろう、きっと。

テレサ・テン墓所

20190415-1555283641.jpg 中国語の授業は教科書の末尾に印刷してあるバーコードを活用すれば、いつでも音声が聞けるようになっており、アナログ人間の私にはこうしたことを学んだだけでも台北に来た甲斐があったと感謝していることは先に書いた。老師(先生)は週末のホームワークとしてスマホから自己紹介の文言を録音して送るように指示した。ボイスレコーダーの機能を活用する。私にはこれも難儀だったが、文章を練り上げ、何とかラインで送った。スマホを使いこなせないと昨今の大学の授業にはついていけないということか。
20190415-1555283665.jpg 日曜日。この日足を運びたいと考えていた場所があった。台湾が生んだ世界の歌姫、テレサ・テンの墓所だ。いつぞやテレビで彼女のお墓には世界中からファンが訪れているという番組を見た。私は彼女の生前はファンとは決して言えなかったが、中国語に興味を覚え、台湾を旅するようになってから彼女のファンになっていた。そうなって改めて気づけば、1953年の生まれの彼女は私と同世代だ。1995年に42歳の若さで没している。
20190415-1555283701.jpg ネットで調べると、MRTと呼ばれる電車で淡水駅まで行けば、そこから路線バスで行けるとある。淡水駅は多くの観光客らしき人々でごった返している。観光案内所でテレサ・テンの墓所行きのバスを英語で尋ねる。誰の墓所?しまった。私は彼女の中国語名を調べていない。台湾が世界に誇る女性の歌手だ、あなたたちも知らないわけないでしょと説明するが、若い男女二人の職員は首をかしげるばかり。
20190415-1555283739.jpg 二人はその歌手はどんな歌を歌っていたのですか?と尋ねる。仕方なく、日本語で彼女の代表作の一つ、「時の流れに身をまかせ」を口ずさむはめになった。ところどころ音程を外しながら歌うと、二人はなぜか笑いながら、知っているような知らないような反応。それでも何とか分かってもらえ、彼女の墓所がある金宝山霊園に向かう路線バスが判明する。彼女の中国名表記は鄧麗筠(デン・リージュン?)だった。
 そのバスはテレサ・テンの墓所詣での人々で混みあうのかと思っていたが、墓所があるバス停で下車したのは私の他にはカナダから来たという中国系の中年の女性一人だけだった。命日とかの特別の日には賑わうのだろうが、この日はテレビで見た光景とは大違いで何とも寂しかった。この広々とした霊園は富裕層だけが眠れる高級霊園であることが分かる。
20190415-1555283788.jpg 彼女のお墓に手を合わせ、しばらく路線バスを待った後、再び淡水駅に戻る。駅の近くの商店街は凄い賑わい。テレサ・テンの墓所で知り合った先ほどのおばちゃんとお昼を食べることにする。彼女は中国系とあって言葉ができるから、食堂のおばちゃんたちと丁々発止、食べたい料理にあれこれ「注文」を付ける。その土地の言葉ができるというのは羨ましい。もっとも彼女は中国大陸の生まれだから台湾の人々が語る中国語とはいささか異なるようだが。白米を含め青野菜や炒め物などが出て来て、締めて210元。折半して105元。きわめてリーズナブルなランチだ。しかも美味かった!
20190415-1555283836.jpg ランチを食べた後、彼女と別れて駅に戻る。駅裏の広場も行楽客でにぎわっている。歌声も聞こえる。日本の演歌だ。ただし、言葉は台湾語。そのうち、テレサ・テンの歌が歌われ始めた。こちらはどうも中国語のようだ。しばし足が止まる。そのうちに私も彼女の歌の一つや二つはカラオケで歌えるようになりたい。カラオケ自体、久しく行っていないが。

『漢字と日本人』

20190412-1555022231.jpg 今回の台北の旅に『漢字と日本人』(高島俊男著・文春新書)という日中両言語の関係を考察した本を持参した。著者の高島氏の名前は週刊誌のコラムなどで知ってはいた。
20190412-1555022257.jpg 読み終えた今、刺激に満ちた好著だと思う。日本人が中国の先進文明から漢字を取り入れた経緯を次のように記している。<かつて日本に文字はなかった。千数百年前に中国から漢字がはいってきた。日本人は漢字をもちいはじめた。(中略)日本語はあった。いやもちろん「日本語」という名称はありませんよ。名称の問題じゃない。漢字がはいってくるよりもずっと前からこの日本列島に人は住んでいて、その人々の話していることば、それはすなわちわれわれがいましゃべっていることばの先祖にあたるわけだが、それはあった。あたりまえです。しかし、それを表記する文字はなかった、ということです。>
 私などは日本が中国から漢字を採用したことを幸運に感じているが、高島氏は次のように喝破している。<つぎに、日本が中国から漢字をもらったことをもって、恩恵をうけた、すなわち日本語にとって幸運なことであったと考える人があるが、それもまちがいである。それは、日本語にとって不幸なことであった。なぜ不幸であったか。第一に、日本語の発達がとまってしまった。(中略)日本語は、みずからのなかにまだ概括的な語や抽象的なものをさす語を持つにいたっていない段階にあった。日本語が自然に育ったならば、そうしたことばもおいおいにできてきたであろう。しかし、漢字がはいってきたーーそれはとりもなおさず日本語よりもはるかに高い発達段階にある漢語がはいってきたということだーーために、それらについては、直接漢語をもちいるようになった。日本語は、みずからのなかにあたらしいことばを生み出してゆく能力をうしなった。>
20190412-1555022296.jpg 高島氏はさらに次のように説いてもいる。<漢語と日本語とがあまりにもかけへだっていたために、日本語を漢字で書く、ということには、非常な困難と混乱とがともなった。その困難と混乱とは、千数百年後のこんにちもまだつづいている。そんな不便な文字を、なぜ日本人は採用したのか。もし、漢字と同時にアルファベット文字が日本にはいってきていたら、日本人は、考慮の余地なくアルファベットを採用していただろう。>
 台北の大学の中国語センターで中国語を学び始めて数日が過ぎた。老師(先生)に相変わらず、単語の発音の不備を指摘されている。『漢字と日本人』には次のような記述もある。<さあさっきからしきりに日本人の口は不器用だと言っている。これを説明しておかねばならん。日本語は開音節構造である。すべての音節が母音でおわる。しかもその母音の前につく子音は一つだけである。要するに日本人が口から出せるのはごくかんたんな音だけである。またその音の種類がいたってすくない。これはもう大昔からそうである。>
20190412-1555022326.jpg 私が中国語の発音に難儀しているのは私が生まれ育った日本語のゆえであるらしい。とはいえ、クラスメートの若いベトナムやインドネシア、韓国の若者も zhi- や shi-、ri- などの巻き舌音や四つある声調に苦労している。
 さあ、今夜は何を食べようか。福岡に戻れば自分で料理する質素な生活が待っているが、ここ台北での食事代は外食とはいえ、福岡での食費を上回っていないような気もする。それで美味いのだから有難い。日本人の口は不器用でも舌は不器用ではないということか!

やっと咸豆漿に!

20190410-1554852012.jpg 朝目覚めて下界の様子が全く分からないのにも少し慣れた。慣れたが、やはりどうも勝手が悪い。カーテンをさっと引っ張れば明るい日差しが差し込んでくる、そんな気分に浸りたい。今の部屋代に380円上乗せすれば窓のある部屋に移れるのだが、いったん腰を落ち着けるとなかなか動けない性分の私は決めかねている。こういうのを愚か者というのだろう。
 火曜日の朝。壁にかかっているテレビをつける。NHKで天変地異が起きていないことをまず確認。CNNでトランプ氏の愚かさを再確認。そして地元のテレビ局にチャンネルを切り替える。流れてくるのは台湾語だと思うが、私には意味不明。片隅の天気予報を見る。台北は曇り空に晴れマークが少しのぞいている。気温は27―32度らしい。前日も日中は暑かった。日本ならもう真夏と呼べる気候だと感じた次第だ。
 さて張り切ってホテルを後にしようとしていたら、地元のテレビ局が、突然、大リーグの生中継を放送しだした。台湾の人々も大の野球好きらしい。この日のゲームはニューヨークヤンキース対ヒューストンアストロズの好試合。ヤンキースの先発投手は今シーズン好調の滑り出しをしている田中マー君だ。少しだけならテレビで見て行くことができる。台北に勉強に来ていて大リーグのゲームに引きずられるなんて! こういう往生際の悪いのも愚か者と言うのだろう。
20190410-1554851956.jpg 中国語を学んでいる大学までホテルから歩いて10分程度。途中で朝飯を食べる食堂に立ち寄る。この食堂には塩っぱい咸(シエン)豆漿(豆乳)がある。卵焼きと一緒に注文して60元(約230円)。地元の人たちの食べ方を見てみるとこの他にも一つ二つ追加している人が多いようだ。私も追加であれこれ注文したいのだが、どうも勝手が分からず、つい尻込みしてしまう。
 二日目の授業では引き続き発音練習と筆順の確認。発音はやはり巻き舌音がやっかいだ。声調(tone)も油断をするとついおざなりになってしまう。ある程度の緊張感をもって発声しないと老師(先生)から必ず駄目だしを食らうことになる。老师は筆順の大切さも力説した。ただし私は筆順は適当でいいのではないかと思っている。それはこのブログでも最近アップしたが、『漢字再入門』(阿辻哲次著・中公新書)という好著を読んだことに感化されたからでもある。著者の阿辻氏は一般的に正しいとされている筆順にあまり拘泥する必要はないと説いていた。しかし、私たちのクラスの老師は漢字を常に正しい筆順に従って書くように訴えた。彼女の説明を聞いていて、私が普段書きとばしている漢字の筆順がいかに間違っているかを再認識させられた。これはこれで勉強になった。
 授業を終えて学内に残っていたら、前日に立ち話をした別の老師を見つけたので挨拶した。彼女は日本語ができるので心強い。名刺を渡しておいたら、私のブログを早速のぞいてくれたみたいだった。とてもありがたく感じた。私の中国語に関する記述でヘンテコなところがあれば遠慮なく指摘してくださいとお願いした。
 授業の休み時間にスマホでヤンキースの試合をチェック。マー君が6回を投げ終えた時点でヤンキースが3対1で勝っていたため、マー君の2勝目を期待していたら、最後にはまたしても逆転負けを喫していた。ヤンキースにも愚か者がいるようだ。

時代華語

20190409-1554735868.jpg 台北の大学で私が受講する外国人向けの中国語講座が始まった。初日に買い求めた大学指定の教科書は「時代華語」というタイトル。華語というのは分かるが、時代は分からない。時代華語の真下に Modern Chinese という英語表記がある。なぜ「現代華語」ではないのだろうか。そのうちに担当の老師(先生)に尋ねたいと考えている。
20190409-1554735981.jpg 初日ゆえに最初の授業を前に簡単な筆記テストを受けさせられた。簡単な拼音(ピンイン)表記や質疑応答の文章を答える問題で比較的すらすらと解答することができた。私の答案をチェックした職員は中級の講座に参加する手もありますよと説明してくれたが、やはり不安もあるので初級の講座を選択した。
 初級の教室は初日とあって時間とともに受講生が増えていき、最終的には25人かそこらになったようだ。老師は明日からはクラスを2つに分割すると告げた。ベトナム、インドネシア、韓国の学生が多かった。日本人は私の他には1人だけいたような。圧倒的大多数は20代の若者たち。他のクラスを含めても私が群を抜いて最年長かもしれない。
 簡単な自己紹介を各自が済ませた後、老師は早速、中国語の発音の規則をさっとおさらいした。それから基本的な発音の練習。私は曲がりなりにもNHKのラジオ講座で3年近く独学してきていたからついていくことができたが、何の予備知識がなくてこの講座に飛び込んだら、とてもついていくことはできないだろうと感じた。ベトナムやインドネシアの若者たちは中国と近隣にあるからかかなりの予備知識があるように感じた。
20190409-1554736076.jpg 老師が教科書の末尾にあるバーコードのことを何度も口にした。バーコードを活用すれば教科書の語彙や文章が自由に聴取できると言っているようだ。アナログ人間の私は恥ずかしながら、これまでバーコードを一度も触ったことがない。バーコードと言われると、自分の頭髪のことを言われているようで切なくなってくる・・・。
 とまあ、そんなことはどうでもいいのだが、ホテルに戻って、フロントの女性にバーコードの利用の仕方を尋ねた。彼女はスマホのラインでできると言って、てきぱきと教えてくれた。あら、不思議。たちどころに教科書の音声がスマホで即座に聴けるようになった。知らなんだ、こんな便利なものがあるとは! こうしたことを知っただけでも、台北に来た甲斐があったというものだ。
 さて、中国語の講座は始まったばかり。大多数の学生は3か月の正規コースに登録して、腰を落ち着けて学ぶようだが、私は最短の3週間しか受講しない。私も本来なら正規コースに参加できたのだが、5月から英語教室を開講することになったため、もはやそれは不可能。3週間で精一杯、中国語の世界に浸り、力を少しでもつけるつもりだ。
20190409-1554736022.jpg 授業は午前中の3限。一応、スロージョギングができる準備はしてきているが、まだ走ってはいない。その代わり、公園や街中をできるだけ歩くようにしている。万歩計を信用するなら、こちらに来て以来、だいたい日々16,000歩以上は歩いている。夕刻お腹を空かせてこのところ夕食に食べているのは排骨酥と呼ばれている麺類と小籠包。排骨酥は青野菜にダイコンが入っており、健康にも良さそうだ。その店に何度も行くからか、スタッフの愛想も「非常好」(大変良い)。

犬も歩けば

20190407-1554599013.jpg 窓のないホテルの一室。やはり外の様子が伺いしれないというのは不満だ。緊急時のことを考えると不安感はさらに募る。この部屋は12階だから、窓があればどうとかなるというものでもないが。昨日は一応、非常階段を確認するため、自室がある12階から地上まで歩いて降りてみた。階段の通路に洗濯物が干してあったり、雑多な物が置いてあるのはまあ許せるとして、3階から下は通行不能。回れ右してもう一つある階段を下ってようやく地上に降り立った。なんだかなぁ!という気分だ。
 土曜朝。とりあえず大切な朝飯を食べよう。フロントに鍵を置いて、エレベーターで一階に降りる。天気は晴れで上々なことに初めて気がついた。空気も気持ちいい。
20190407-1554599275.jpg 朝飯が食べられる食堂を探す。日本でもお馴染みの外食チェーン店は多いが、できればここでしかお目にかかれない地元の店で食べたい。それはどの国を旅しても同じ思いだ。
 一軒、そういうお店を見つけ、通りに面した厨房をのぞき込んでいると、「ニーハオ。いらっしゃいませ」という感じで店内に誘う。夫婦と若い娘さんが立ち働いている。温かくて少し塩っぱい咸(シエン)豆漿(豆乳)を食べたかったのだが、この店にはなかった。しかたないので温めた豆漿に具入りの卵焼きのようなものを注文する。食後のコーヒーを含めて締めて95元(約360円)。コーヒーを飲みながら、しばし夫婦と常連らしきお客さんとのやり取りに耳を傾ける。「コーヒーを一杯頂戴な」といったやり取りは聞き取れた。
20190407-1554599576.jpg ホテルに戻ってメールを確認する。前夜、中正紀念堂の広場で催されていた集会で立ち話をした男性からメールが届いており、まだ返信していない。どうも初代総統の蒋介石の偉業をしのぶ集会のようだった。参加者は圧倒的に中高年の人々でかなりの高齢者の方々も見かけられた。壇上ではお揃いの衣服を身に付けた人たちが荘重な感じの歌を合唱している。ひとしきり見物した後、会場を後にしようとしていたら、遠くで何やら古めかしい軍服を着こんだ男性数人の姿が目に入った。
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 その内の一人の軍服には見覚えがあった。ケーブルテレビで何度も目にした中国の軍事ドラマで旧日本軍や共産党軍と戦っていた国民党の兵士の軍服だったからだ。私は声をかけていいものかためらったが、好奇心を抑えきれずに声をかけた。以下、英語でのやり取り。「あなたが着ているのは国民党の軍服ですよね」「そうです。私の祖父は上海で日本軍と戦い、捕虜となり、その後、日本の傀儡政権の兵士となりました」「そうですか。その後、蒋介石に率いられて台湾に来たのですね」「ええ。今下げている小剣は新しいものですが、祖父もこのような剣を持っていました」「そうですか。ところで蒋介石はあなたにとって今も英雄ですか?」「90%はそうです」「残りの10%は?」とここまでやり取りしたところで立ち話がストップしたので、彼はその保留した10%の理由をメールで補足してくれたのだ。蒋介石の偉大さを称えた上で、「彼はその気になれば多くの人々の命を救えることができたと思う。だがそれをしなかったので90%です」と補足していた。
 この男性は36歳だと語っていた。高校時代には1年間、日本語を勉強したという。メールは「日本の新元号・令和の施行、おめでとうございます。私の初めての男児は令和元年5月に誕生する予定です」と結ばれていた。

中正紀念堂の衛兵

20190405-1554429150.jpg ホテルを移った。台北は地下鉄が便利で、タクシーに頼らずとも目的地に行けるのが有難い。スーツケースが重い。ロンドン支局時代から使っているが、今回、福岡空港で取っ手の一つが遂に破損した。車輪も音が凄まじい。押して歩くと、周囲の誰もが驚いて振り向く。そろそろ買い替えの時期かも。何だか「旧友」と別れるような気がする。
20190405-1554429203.jpg 移ったホテルの部屋は12階。通告されていた通り、とても狭く、スーツケースの置き場に困るほど。窓もない。だから部屋の中にいると下界の様子が全然分からない。それでもここを選んだのは宿賃が格安だったから。個室が確保されてきちんとした浴室や多チャンネルのテレビがある部屋を求めれば、これが望みうるベストの選択ではと思う。フロントのスタッフの対応も安心できるものだった。
20190405-1554429238.jpg 金曜日朝。前夜は残念ながらなぜかあまり熟睡できなかった。空腹を覚えたのでとりあえず、朝飯を食べようとフロントに向かった。このホテルでは出かける時は必ず鍵をフロントに預けるように言われている。朝飯のため出かけると(英語で)言うと、スタッフの女性が「今日は休日だから街中の食堂は開いてないでしょう。コンビニに行けばいいですよ」と言う。ああ、そうなの。ふと、フロント奥のカレンダーに目をやると、4日と5日が真っ赤に染まっている。あれ、昨日も休日だったの?と尋ねると、そうですとの返答。なるほど、だから昨日は家族連れが街中にあふれていたのかと合点が行った。
 本日5日は清明節だとか。そう言えば、昨日近くのレストランの外壁に「清明節 休息一天」という張り紙を見かけた。「清明節には一日休みますよ」というお知らせだろうかと推察はできたが、それが今日だったのか。確かにホテルの外に出ると通りはどこも閑散としていた。少し小雨もぱらついている。コンビニの手前でパン屋さんが営業していたので飛び込む。クロワッサンのようなパンを2つと牛乳を買う。締めて115元(約440円)。女店員さんが「パスポートをお持ちでしたら割引できますよ」と(英語で)言う。もちろんパスポートを持って朝飯食いには出かけないので持っていない。これからは持って出ようかな。
 新しいホテルは来週から通う大学に近いので選んだのだが、前日暇つぶしに辺りを散策してみると、すぐそこに台北を代表する観光スポットの一つ、「中正紀念堂」があることに気づいた。中華民国の初代総統である蒋介石が祀られ、市民が憩う公園ともなっている。中正とは彼の本名(蒋中正)に由来するという。
20190405-1554429269.jpg これまでの旅でもそばを通ったことはあるが、足を踏み入れたことはなかった。大孝門から中に入る。実に広々とした空間が広がっている。家族連れ、若者、外国人旅行客で賑わっていた。蒋介石の座像がある本堂へ石段を上る。座像の両脇に衛兵が立っている。微動だにしないのでマネキンかなと思って近づいてみる。マネキンにしては実に精巧にできている。まるで生きた人間のようだ。感心しながら見やっていると、かすかに前後に揺れたような気がした。あれっ、ひょっとして人間? 近くで日本語が聞こえてきた。「皆さん、よくご覧ください。瞬き一つしないでしょ」というガイドらしき人が説明している。やはり人間だ。ホテルに戻ってネットで検索してみると、鍛え抜かれた軍の兵士の精鋭が一時間交代で衛兵を務めているのだとか。なるほど、瞬きさえ許されていないのか。

歩け、歩け

20190404-1554334141.jpg 朝目覚めると、窓の外はどんよりと曇っていた。快晴からは程遠い空模様のようだ。携帯を開くと午前7時。なぜか時刻は日本時間のまま。台湾は日本と1時間の時差があるので、こちらの時刻はまだ午前6時。少し得をしているような気分だ。
 シャワーを浴びる。私は朝シャワーをする習慣はないが、昨日はくたびれ果て、風呂に入る気力も失せ、歯をさっと磨いてベッドに潜り込んでいた。そして朝食。台北ではほぼ毎朝のように通っている大衆食堂に向かうことに決めていた。ホテルから徒歩15分ぐらいだろうか。朝の快適な散歩ともなる。出かける前にテレビをつける。ホテルのテレビは多チャンネルでNHKもリアルタイムで見ることができる。大ニュースはないようだ。
20190404-1554334180.jpg パソコンで大リーグのゲームをチェックするのはこちらでも大切な日課。おや、ニューヨークヤンキースは田中マー君が2度目の先発のようだ。急いでテレビのチャンネルを走らせると、予想通り、ニューヨークでのホームゲームを生中継している。5回を投げ終え、1対0で勝ち投手の権利を手中にしたところまで見た。もっと見ていたい。だが、台北にまで来て大リーグのゲームに熱心に付き合うのもあほみたいな話だ。それとマー君の力投を味方は拙攻で盛り立てることができず、これは逆転負けのパターンだなという予感がしたこともあり、テレビ観戦を諦めてホテルを後にした。
 豆漿(豆乳)と小籠包の二品で90元(約340円)の朝飯を済ませ、地下鉄の駅に向かう。この日は片付けなくてはならない用事があった。実は今回は台北の大学にある中国語センターで中国語を学ぶことにしているのだ。この日は大学の事務局で授業料を支払うことにしていた。授業が始まるのは来週月曜から。本来なら3か月の講座だが、最短3週間から授業を受けることができるので、私はこの最短のコースを受講する。
20190404-1554334217.jpg 次の用事は大学の近くで安宿を見つけること。4週間近い長期の滞在だから、少しでも安いホテルを探したい。バックパッカーの若者がよく利用する安宿は私のような還暦を超えた者にはちょっと厳しいかなと思う。無理して窮屈な思いはしたくない。かといってこれまで利用してきたホテルでは懐具合がすぐに寂しくなる。ならどうするか。実際に現地を歩いて格安なホテルを見つけるしかない。
 それで大学の周辺を歩き回った。だが、なかなかホテルの看板を下げているところがない。諦めかけていた頃、ホテルの看板が見えた。駄目もとでフロントに足を運ぶ。一番安い部屋のレートは幾らですか? その部屋まだ空いてますか? 驚いたことに私の期待以上の部屋があった。しかも27日のチェックアウトまで借りることができるようだ。
 気がだいぶ楽になって常宿のホテルに戻った。さあ、今晩はゆっくりお風呂に浸かって歩き疲れた足を癒そう。惜しまれるのは入浴剤の木酢液を持参しなかったこと。一応、こちらのドラッグストアをのぞいてみたが、さすがに木酢液は置いていなかった。それでも日本のさまざまな入浴剤は売っている。「日本の名湯」とうたっているものを一つ買い求め、この日の夜、早速使ってみた。
 ところで先述のニューヨークヤンキースのゲーム。歩き回りながらスマホで結果をチェックしていたが、やはり、逆転負けを喫していた。マー君の好投は報われなかった。

再び台北に

20190402-1554209191.jpg 新元号フィーバーに沸き立つ日本を発ち、台湾を訪れた。昭和から平成への改元時には海外にいて実体験していないので、少なくとも令和への代替わりはとくと見ておきたかった。今この項を台北のホテルで書いていて、驚いたのは「れいわ」と打って変換キーを押すと、即座に「令和」という漢字が出てきたこと。電子辞書で「れいわ」と打っても「例話」しか出てこないのに。私のパソコンはもうだいぶがたが来つつある。それなのに新元号がすっと打てるとは不思議でならない。
 令和。英語表記は「REIWA」になるのだという。日本語ではLとRの区別がないから特段のことでもないが、英語の発音のことが普段から念頭にある私はつい、巻き舌を意識してしまう。テレビでは「令和」を平板に発音するのか、語頭にアクセントを置いて発音するのかで「激論」になっていた印象がある。無アクセント地区である宮崎県出身者にはどうでもいいことだが、Rが語頭に来る語には興味を覚えずにはおれない。
 飛行機の中で読んだ読売新聞の文化欄で日本古代文学に精通している識者が次のように書いていた。——日本語の本来の言葉には、外来語や漢字の熟語を除いて「R」で始まる語はありません。新元号「令和」を初めて聞いたとき、その「R」の音が語頭にくることや、「令」が「命令」といった言葉を連想させるところに違和感を覚えました。しかしよく味わうと、やはり和やかな世を願う深い思いがこもっていると感じます。——
 中国語の初心者である身を顧みずに付記する。中国語で「令和」をピンイン表記すると、ling-he となるかと思う。「令」はrではなくl字音だ。中国語でもr音が語頭にくる語彙はきわめて少ない。その中国語ではl字音の語彙の方がr字音の語彙よりもきれいに聞こえるように私は感じている。日本語はlとrを特段区別しないのでまああまり関係ないかなとも思うが。なお、「令」の字は中国語の表記では若干異なるが、私のパソコンでは同じ字になってしまう。
                  ◇
 さて、昨秋以来の台北。到着したときは曇り空で少しがっかりした。天気予報を見ると、これから先も晴れマークに雨マークが混在しており、あまり期待はできないようだ。
 今回も初日から悪戦苦闘した。携帯電話を使えるようにするルーターを台北の空港で借りたのだが、これがどうも使えるようにならない。ホテルから電話を入れて何度も問い合わせたが、先方に英語を話す人が少なく、意思疎通に四苦八苦。仕方なく、台北でよくのぞいているカフェに足を運び、顔馴染みの店員さんに助けてもらおうと思ったが、生憎私が知っている店員さんたちはもう辞めていた。それでも初めて見る若い女性の店員さんに声をかけると、二人がかりで携帯とルーターをあれこれ調べてくれた。気がついたら、問題なくスマホが使えるようになっていた。初めての客に対するこうした親切な行為。深く感謝!
 ルーター26日間の借り賃は1,800台湾ドル。台北空港での両替レートでざっと計算すると、1元が3.8円の勘定だから、6,840円。1日当たり約260円の計算だ。
 初日の夕食はお気に入りの牛肉麺に水餃子。締めて160元(約610円)。台湾の旅で嬉しいのはどこでも一人食が全然珍しくないことだ。女性の姿も多い。だから食堂にすっと入って、人の目を気にせず、黙々と食べることができる。

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