第二詩集

旅するペンギン

「詩集 旅するペンギン」
船田 崇

四六判、並製、128ページ 
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-080-4 C0092

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著者プロフィール

船田 崇(ふなだ・たかし)
1966年北九州市生まれ。新聞社に勤務。
詩集『空が最も青くなる時間』(書肆侃侃房・2010年)
「侃侃」同人。

もくじ


目覚め
にんげん掘り
球体   

老婆
沼水
リフレイン
排泄
閉じようとしている
白い列車

潰す
生存確認
裏返し


ペンギン
あの日の風
カモメ
赤い傘
何処・ここ
仕事
朝の列車
開くドア
空を見上げる
長い手紙
眠り
裸木
  
                                 

ペンギン

大通りのスクランブル交差点を
斜めに渡っていると
真ん中にペンギンが立っていた
その手にアイスキャンディを持って
右に避けると右に行き
左に避けると左に行くので
どうにも進めなくなっているうちに
青信号はちかちか点滅し始めた

ペンギンはしきりに恐縮して
汗をかきながらぺこぺこ頭を下げるが
灼熱のアスファルトの上で
アイスはだらだら無残に垂れていく
結局ぼくとペンギンは
交差点の真ん中に取り残されたのだった

クラクションとともに
車列がぼくたちを挟んでいく
ぼくとペンギンは倒し損ねた
2つのボーリングのピンのように
並んで立っている

車列のスピードが景色を漂白していく
思い出したがぼくには
交差点の向こうに女が待っているはずだった
しかし向こう岸は少しずつ遠ざかり
女は手を振るが顔は霞んでわからない
気がつくと
女の顔さえも思い出せなくなっていた
対岸は夕闇に暮れていった

いつしかぼくたちは
激しい急流の中に立っていた
ふわふわ深い靄が立ちこめていた
左から首長竜が流れてきた
右からは装甲車
前から捻れた五線譜と噛みつきそうなビーナス像
後ろからは額から血を流した柱時計が
ぼくたちの耳朶をかすめていった

遠くを見つめながらペンギンは言った

 あなたは一度も待ち合わせなどしていないのですよ。たった一つの約束を除いては…。

太陽が卵黄色に熟した夕べに
ぼくとペンギンは対のように
葦高い中洲に佇んでいたのだった
周囲は遥か南氷洋の懐かしい風景に変わった
 
 あなたが歩いたどんな道も帰り道だったのです。鮫のような心に脅かされても
 あなたは小石のように傷つくことはないでしょう。

狭い中洲を挟んで様々なものが流れてくる
廃屋
駄菓子屋の玩具
壊れたコスモス――

ところでペンギンは何処から来て何処へ行くのか?
ガムの看板から抜け出てきたような顔で怪しいのだ

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