第五詩集

ぼくは手紙を書く

「詩集 ぼくは手紙を書く」
福冨 健二

A5判変形、並製、104ページ 
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-067-5 C0092

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著者プロフィール

福冨健二(ふくとみ・けんじ)
1944年 福岡県に生まれる
詩集 黄昏が森を照らすとき(葦書房)1971年
   樹と魚と(葦書房)1972年
   相似形(芸風書院)1986年
   遠い家族(初版・葦書房)1992年
   福冨健二詩集(選詩集・私家版)2002年
   遠い家族(新装改訂版・私家版)2011年
   個人詩誌「草の旗」(2007年2月創刊。現在15号)

もくじ

ぼくは手紙を書く
 窓の外の交通標識のそばに
 モンマルトルの夕日
 来歴
 ぼくは手紙を書く
 紅葉
 警告
 さりながら
 風説によれば
 亀
 毛虫
 空の奥に
 朝顔
 平凡な朝
 石を彫る

少年の日
 少年の日
 近くから遠くから
 走る家
 夏の少年
 空蝉
 正しい歩き方
 押しピン
 バイスクール
 五十一枚目の葉書
 待合室で
 想父景
 
あとがき
                                 

ぼくは手紙を書く

名刺も手帳も財布も
万年筆も本もノートも
ポケットの中に
カバンの中にきちんとある

鏡の前に立てば
鏡の中にはぼくが立っている

はち切れるほど膨らんでいたポケットは萎んでしまい
手にあまるほど重かったカバンは軽くなって
なによりもしなやかだった青年の筋肉は固くなり
みずみずしかった少年の皮膚は乾燥し
髪は白く
それなのに失くしたものがひとつもないなんて

ポケットを裏返しカバンをひっくり返せば
手帳はあちこち痛み名刺はわずか数枚
本は紙魚に汚れ財布は小銭ばかり
ノートの文字はぼやけて
万年筆のインクも残り少ない

鏡の隅まで指で磨けば
鏡の奥にはぼくの抜け殻が蹲っている

やはり多くのものを少しずつ失くしてきたのだ
これまでの道の峠や十字路に

ぼくは手紙を書く
間欠泉の衝動に突き上げられて
手帳のメモ
ノートの文字を頼りに
インクの薄い万年筆で
便箋が文字でびっしり埋まるまで
ぼくは手紙を書く
鏡の奥に蹲っているぼくの抜け殻に宛てて

朝になれば
番地のない手紙は
届けようもなく
机の上に重ねられていくばかりである
しかし手紙を書き終えれば
ぼくのポケットには希望が煌めき
ぼくのカバンには未来が灯って
蹲っているぼくの抜け殻には新鮮な血が脈打ってくる

今ではむしろ
手紙を書くために
ここまで来
ここまで来るために
多くのものを少しずつ失くしてきたように思えるのだ