処女詩集

詩集 空が最も青くなる時間

「詩集 空が最も青くなる時間」
船田 崇

四六判、並製、168ページ 
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-023-1  C0092

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著者プロフィール

船田 崇(ふなだ・たかし)
1966年、北九州市生まれ。新聞社に勤務。「侃侃」同人。

もくじ

Ⅰ 冷たい夜の雨
線路
他人の朝
星雲
こんなところ
孤独な心臓
雨音
私信
透明な滝
秘密の営み
雨の記憶
中洲

Ⅱ 陽炎揺らぐ駅
過去になる部屋
パレード
夜光虫
灼熱の街
吐息
ポケットの夏
昼休み
白桃
手鏡
秋の気配
半島の朝

Ⅲ 優しい夕暮れ
列車の旅
光のナイフ
こんな夜に
黒い河
添い寝
魚の骨
夕暮れ
心臓
突起
古町と喫茶店
長い時間
朝の時間

あとがき

私信

君への手紙を
書くために
夕暮れの斜光の中に
座り込んだのです
風が吹いています
肋骨を肺を汚れた舌を
風が洗っていきます
背中に染みついて
離れない過去までをも
運んでいってくれる
君が知らない
そんな風の優しさ
地平線に押し潰され
夕日は今にも破れそう
雲は幾層にも折り重なり
一度限りの造形を
残照が支えています
これを
血だらけの羊群だとか
天女のはらわただとか
ぎらぎらした脂肪の海だとか
そらに書き付けては
すぐさま
かき消しているぼくは
無力です
このような
大きな時間の劇場では
雲を雲としか呼べず
そこには光と空と
時間があるだけ
君へ送るのは
言葉が失われた
手紙なのでしょうか
木々のシルエットが
魔法使いたちのように
取り囲んでいます
ボールで遊ぶ親子も
帰路につく時間
遊び足りない男の子が
ボールをぽーんと
高く蹴り上げるその瞬間も
鮮やかな影絵になって
そんな美しい風景をぼくは
かつて知りません
もちろんぼく自身も
薄っぺらな影の一枚
でしかなく
見えない電車の音が
通過していきます
成田へ向かう機影が
引っきりなしに
空を切り分けていきます
その前を
二つの鳥影が円やかな
曲線を描いて行く
足下では枯葉たちが
腐食の季節にたえている
すると
だれかのケータイが
突然鳴り響きます
こんなに速度の違う時間たちに
毎日切り刻まれる
そんな時代に生きていて
気が狂わないほうが
おかしいのかもしれませんね
君はだいじょうぶ?
街灯が
一つずつ点っていく
そのたびに
思い出が
一つずつ胸に点ります
すべてが悔悟に滲み
すべてが痛みでしかなく
ぼくの胸の中はいつも
血だらけになってしまうのです
こんな時の君は
近づいたかと
思えば遠ざかり
優しいかと
思えば残酷で
ベンチにひとり蹲るぼくは
午後七時の鐘に
助けられるのです
でもね
こうして
ずっと座っていると
一日のうちで
空が最も青くなる時間が
いつなのかもわかるのです
そんなことを
君に伝えたくて
きょうも
ぼくは
手紙を書いています