第二詩集

レ モ ノワール

レ モ ノワール 黒い言葉 井本元義第二詩集
井本元義

A5判、上製、144ページ 
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-902108-85-9 C0092

WEBでの本の購入はこちらより
Amazon

著者プロフィール

井本元義(いもと・もとよし)
1943年7月14日生。
九州大学理学部物理学科卒業。
「壇」「九大文学」「新潮」「三田文学」「作品」「午前」「季刊午前」「胡壺」に作品発表。
第一詩集『花のストイック』2004年

●跋文
吉本 哲郎
1943年生。精神科医。詩人。
井本元義の50年近くの「ことばによる創造」の友。
北九州在。

もくじ

巻頭詞 三つの心

水辺に立ちて
 満ちてくる水
 膨らんでくる水
 動かぬ水

遍歴

散文長詩 ボードレール風に習作
 器械屋の憂鬱
 飛ぶ白鳥
 帰郷

鎮魂歌
 暴走の海昏ければ海を撃つ
 鎮魂歌
 花逢忌 檀一雄三十回忌
 十四歳の詩 春雨の回想
 Mon pch わが罪

四季
 古風な春の唄
 悪の夏
 秋のコラージュ
 鉛の冬
  病む土群 その一,二,三,四

跋にかえて

あとがき

満ちてくる水

僕は身を隠すためにここに来たのだった
長い間使われていない倉庫群
錆びた廃線のレールに沿って白い小さな花が咲いている
僕は運河のほとりに佇む
水は透明なのか不透明なのかわからない
真っ黒だからだ

闇が降りてくる
僕の足元は揺れる 
否 停滞していた運河が動き出す
かすかな漣が踊子の舞いのように見えていたのに
逆流が次第に速さを増す
満ちてくる波の激しさ
流れが岸を打ち 雑草が気流に揺れる
鞭打たれ追われる罪なき囚人の群れ

僕は友人たちから遠いところに身を隠し
愛するものからしばらく離れていようと思ったのだ
暗い海から逆流してくる運河の水
帰ることのない水
悲しみではない もちろん後悔ではない
胸に満ちてくるこの水のようなものは何か

遠くに常夜灯のように光る高層ビル群
僕には蛍の乱舞にしか見えない
運河の水は濁流のように勢いを増す
渦巻いて暗渠へ流れ込む
それは都会中に張り巡らされた地下水脈へ続くのか
それとも永遠のカタコンブへ落ちる大瀑布となるのか

胸から喉元へ込み上げてくるこの満ちてくる水は何か
僕は友人たちを憎んでいたわけではない
軽蔑することはあったけれど
いつも笑いあい 親しかった友人たちだった
それをなぜ僕は裏切らねばならないのか

何時間もこうやって立ち尽くす
愛していた故郷をなぜ憎むようになったのだろう
僕の過去の全てに限りない侮蔑を
この満ちてくる暗黒の甘い水のようなもの
それが憤怒として吹出さないように僕は必死で抑える
僕はいつの間に亡命者になったのだろう