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ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)④

  • 2012-10-10 (Wed) 20:04
  • 総合

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 私が驚くのはシェイクスピアが生きたころは、現代のような辞書がなかったということだ。彼は辞書なくして文章を綴った。それだけ「自由気まま」に書くことができたという見方もできるのだろうが、うーんと唸るしかない。
 バーカムステッドで会った詩人で音楽家のジョナサン・ステッフェン氏は「シェイクスピアの時代はイタリアのルネッサンスの作家たちに影響を受け、我々が今考えている以上に知的刺激がある時代でした。シェイクピアが抜きんでてユニークなのは、彼は自身が育ったウォーリックシャーの方言をふんだんに作品に投じていることです」と語る。「彼の作品に登場する人物には時代を超えてリアリティーがあります。だから、今なお、教育の場で劇場で創作の世界で彼の作品が愛されています。注目に値するのは、英国国教忌避のカトリック教徒であったシェイクスピアが『リチャード二世』など権力にある側(エリザベス女王)から見れば政治的に生臭いテーマの歴史劇を発表しても、咎められることなく活動ができたということです」
 没後400年を経ても、シェイクスピアの作品で接する登場人物の台詞の一言一句は今も瑞々しい。ケンブリッジ大のモードリンカレッジの庭園では喜劇 “As You Like It” (邦訳『お気に召すまま』)を観た。ヒロインのロザリンドが “Do you not know I am a woman? when I think, I must speak.” (私が女であること忘れたの? 女は頭に浮かんだことは口にするものなのよ)と語る場面では観客はどっと笑った。こうしたウィットは今もなお冴えわたっている。
 大英博物館で開催中のシェイクスピア展に足を運んだ。文豪が生きた時代がイングランド、特にロンドンとの関わりを中心に紹介されていた。エリザベス女王からジェイムズ1世の世に移行し、1605年11月に起きた改宗カトリック教徒のガイ・フォークスが首謀した火薬陰謀事件(注1)を題材に “Macbeth” が書かれ、assassination(暗殺)という単語がこの時初めて「登場」したことなど興味深いエピソードの数々だ。
 シェイクスピアの作品は思わぬところでも読まれていたようだ。南アフリカがまだアパルトヘイト(人種隔離政策)体制下にあった当時、反アパルトヘイトの闘士が投獄されていたロベン島の監獄でもシェイクスピアが愛読されていたという。その実物の本(シェイクスピア全集)が展示されていた。インド系の活動家がこの本をこっそり監獄に持ち込み、ヒンズー教の経典のように表紙を装って、囚人たちが回し読みしていた。ネルソン・マンデラ氏も愛読者の一人で、彼が好んだ一節には署名が添えられていた。
 その一節は “Julius Cesar” の中で、夫のシーザーが暗殺されるのではないかと案じる妻のキャルパーニアに対し、古代ローマの将軍が語る言葉だ。「臆病なる者は死を恐れるがゆえに何度も死ぬ。勇敢なる者が死に向き合うのは一度だけだ」(注2)
 南アの虐げられた人々のために生涯を捧げたマンデラ氏だけに「説得力」がある。私はこれまで(飛行機に乗る都度)何度死んだことだろうか!
 (写真は、シェイクスピア展が催されているロンドンの大英博物館。いつ行っても多くの観光客で賑わっている。シェイクスピア展は例によって写真撮影厳禁)

 注1)1606年11月5日に英国王ジェイムズ1世を殺害しようとした事件。ウエストミンスター宮殿にある議会の地下に爆薬を仕掛け、国王と議員の暗殺を狙ったが、犯行が事前に発覚して、ガイ・フォークスら首謀者は処刑された。11月5日はガイ・フォークス・デイあるいはボンファイア・ナイトと呼ばれる記念日となっている。

 注2)次のような一節だ。
 “Cowards die many times before their deaths.
 The valiant never taste of death but once.
 Of all the wonders that I yet have heard,
 It seems to me most strange that men should fear,
 Seeing that death, a necessary end,
 Will come when it will come.”

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